【2024】相続登記に遺産分割協議書は必要?書き方をわかりやすく解説

相続登記の遺産分割協議書不動産
この記事を監修した専門家は、
呉村成信
司法書士
2016年、司法書士試験合格。東京司法書士会所属。都内の司法書士事務所にて不動産登記を中心に登記業務全般に携わる。その後独立し、2019年、そうぞくドットコム不動産の立ち上げ期から参画し、プロダクトアドバイザーに就任。

相続登記をする際には、さまざまな書類を用意しなければなりません。中でも、ほとんどのケースにおいて「遺産分割協議書」は必須とされます。

では、相続登記で遺産分割協議書が不要となるのはどのようなケースなのでしょうか?また、遺産分割協議書は、どのように作成すれば良いのでしょうか?

今回は、相続登記で必要となる遺産分割協議書についてくわしく解説します。

相続登記とは

相続登記とは、法務局に登記(登録)されている土地や建物の名義人が亡くなった際に、相続人などへと名義を書き換える手続きのことです。

不動産の情報やその名義人の情報は、法務局に登記されています。そして、この名義人が亡くなったからといって、勝手に情報が書き換わるわけではありません。法務局側では、その不動産を誰が相続することになったのかなど知る由もないためです。

そのため、相続人側が申請をして、名義を書き換えてもらわなければなりません。この手続きを、「相続登記」といいます。

なお、相続登記はこれまで義務ではなかったことから、比較的価値の低い不動産を中心に、長期にわたって手続きが放置されるケースが相次ぎました。このことが、もはや現在の権利者がわからない「所有者不明土地」の増加原因であるとして、社会問題となっています。

これを受け、相続登記を義務化して、期限を設ける改正がなされました。改正法の施行日である令和6年(2024年)4月1日以後は、正当な理由なく相続開始後3年以内に相続登記をしなければ、10万円以下の過料に処される可能性が生じます。

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遺産分割協議書とは

多くの相続登記では、遺産分割協議書の添付が必要となります。では、遺産分割協議書とはどのような書類を指すのでしょうか?遺産分割協議書の概要は次のとおりです。

遺産分割協議書は遺産分割協議の結果を記した書類

相続が起きると、亡くなった人(「被相続人」といいます)の遺産はいったん、相続人全員の共有となります。

しかし、共有のままでは財産の活用に制限がかかり、使い勝手が良くありません。そこで、「自宅不動産とA銀行の預金は長男が相続して、貸駐車場となっている土地とB銀行の預金は二男が相続する」というように、相続人間で遺産を分けることが一般的です。この遺産分割を行うための話し合いを「遺産分割協議」といいます。

そして、この遺産分割協議の結果として誰がどの遺産を取得することになったのかを簡潔に記した書類が「遺産分割協議書」です。

遺産分割協議書には相続人全員の実印が必要

遺産分割協議書には、相続人全員が、実印で押印しなければなりません。なぜなら、遺産分割協議を適法に成立させるためには、相続人全員の合意が必要であるためです。

相続人がそれぞれ遺産分割協議書に実印を押すことによって、遺産分割協議書へ記載された遺産分割の内容に合意したことを証します。

なお、相続人の中に行方不明者がいる場合や重い認知症の人がいる場合などには、これらの人は適法に遺産分割協議書へ押印することができません。そのため、相続人の中にこのような人がいる場合には、遺産分割協議に先立って「不在者財産管理人」や「成年後見人」などを選任してもらう手続きが必要です。

これらの手続きには手間がかかる他、制度を正しく理解することは容易ではありません。そのため、このような事情がある場合には、司法書士などの専門家へあらかじめ相談することをおすすめします。

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相続登記に遺産分割協議書は必要?

相続登記をする際には、遺産分割協議書が必要なのでしょうか?順を追って見ていきましょう。

相続登記には原則として遺産分割協議書が必要

相続登記には、原則として遺産分割協議書が必要となります。遺産分割協議書があることで、その相続人がその不動産の新たな所有者となったことについて、相続人全員の合意が得られていることの証明となるためです。

例外的に遺産分割協議書が不要なケース

次の場合には、例外的に、相続登記にあたって遺産分割協議書は必要ありません。

相続人がはじめから1人しかいない場合

相続人がはじめから1人しかいない場合には、相続登記をするにあたって、遺産分割協議書は必要ありません。なぜなら、相続人が1人しかいないのであれば、遺産分割協議を経ることなくその者がすべての遺産を相続することになるためです。

ただし、相続人の範囲は思いのほか広く、相続人が1人しかいないケースというのはさほど多くはありません。相続人が1人しかいないケースの代表例は、被相続人の配偶者がすでに亡くなっており、被相続人の子どもが1人のみであるケースです。

一方、被相続人に子どもがおらず配偶者がいる場合には、配偶者とともに被相続人の父母や兄弟姉妹などが相続人となるため、配偶者のみが相続人となるケースはあまりありません。本当に相続人が1人であるかどうか判断に迷う場合には、あらかじめ専門家へ相談しておくと良いでしょう。

他の相続人が相続放棄をした結果、相続人が1人しかいなくなった場合

相続放棄とは、家庭裁判所へ申述することで、はじめから相続人ではなかったこととなる手続きです。相続放棄をすると、その相続において、プラスの財産もマイナスの財産(借金など)も引き継ぐことがなくなります。

被相続人に借金が多くこれを引き継ぎたくない場合や、被相続人と生前に音信がなく借金がない確証が持てない場合などに選択することが多いでしょう。

他の相続人が相続放棄をした結果、相続人が1人しかいなくなった場合には、遺産分割協議書は必要ありません。この場合も上のケースと同様に、遺産分割協議を経ることなくその者がすべての遺産を相続することになるためです。

ただし、相続放棄の結果として相続人が1人となった場合には、他の相続人が本当に相続放棄をしていることを証するため、「相続放棄申述受理証明書」などを添付しなければなりません。相続放棄申述受理証明書は他の相続人などの利害関係者からの請求で家庭裁判所から取り寄せることができますが、相続放棄をした元相続人やその代理人などから送られてくることも多いでしょう。

また、相続放棄をした人によっては、次順位の相続人が繰り上がって相続人となる可能性がある点に注意が必要です。たとえば、もともとの相続人が被相続人の長男、長女、二男であり、長女と二男のみが相続放棄をした場合には、たしかに長男のみが相続人となります。

一方、元々の相続人が被相続人の配偶者と長男であり、この長男が相続放棄をした場合には、配偶者のみが相続人になるとは限りません。この場合には、次順位の相続人である被相続人の父母や、さらに後順位である被相続人の兄弟姉妹などが繰り上がって相続人になるためです。

遺言書に従って相続登記をする場合

被相続人が有効な遺言書をのこしており、この遺言書に従って遺産を分ける場合には、遺産分割協議書は必要ありません。すべての遺産の帰属先が遺言書で決められているのであれば、原則として遺産分割協議をする余地がないためです。

調停や審判で遺産を分けた場合

相続人同士での遺産分割協議がまとまらず、調停や審判にまでもつれ込んだ場合には、相続登記に際して遺産分割協議書は必要ありません。なぜなら、この場合には裁判所が発行した「調停調書」や「審判書」などを添付して相続登記をするためです。

調停とは、家庭裁判所の調停委員が順に意見を聞く形で進行する話し合いです。一方、審判とは、裁判所に遺産の分け方を決めてもらう手続きを指します。

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相続登記で使う遺産分割協議書のひな型とポイント

相続登記で使う遺産分割協議書は、どのように作成すればよいのでしょうか?遺産分割協議書の記載例と作成のポイントは、それぞれ次のとおりです。

相続登記で使う遺産分割協議書の記載例

相続登記で使用する遺産分割協議書の記載例は、次のとおりです。なお、相続登記をするのみの目的であれば、相続登記をする不動産のみを記載すれば構いません。

しかし、他の遺産についても協議が成立しているのであれば、預貯金など他の遺産についてもあわせて記載しておくと良いでしょう。

 

遺産分割協議書

被相続人  相続 太郎
生年月日  昭和10年1月1日
死亡年月日 令和5年1月1日
最後の住所 神奈川県横浜市〇〇区〇〇一丁目1番1号

上記の者の遺産について、相続人 相続 一郎 及び 相続人 相続 二郎 が分割協議を行った結果、次の通り遺産を分割し、取得することに合意した。

第1条 相続人 相続 一郎 は、次の遺産を取得する。

(1)土地
所  在 横浜市〇〇区〇〇一丁目
地  番 101番
地  目 宅地
地  積 150.00㎡

(2)建物
所  在 横浜市〇〇区〇〇一丁目101番地
家屋番号 101番
種  類 居宅
構  造 木造かわらぶき2階建
床 面 積 1階 100.00㎡
2階 80.00㎡

第2条 相続人 相続 二郎 は、次の遺産を取得する。

(1)預貯金
ABC銀行 横浜支店 普通預金 講座番号1234567

(2)預貯金
ゆうちょ銀行 通常貯金 記号番号 1111-1111111

第3条 前条までに記載なき遺産及び後日判明した遺産については、相続人 相続 一郎 が取得する。

上記のとおり協議が成立したので本協議書を2通作成し、署名押印の上、各相続人が1通ずつ所持する。

令和5年〇月〇日

住所  神奈川県横浜市〇〇区〇〇一丁目1番1号
氏名  相続 一郎  (実印)

住所  東京都〇〇区〇〇一丁目1番地1号 〇〇マンション101号室
氏名  相続 二郎  (実印)

相続登記で使う遺産分割協議書のポイント

相続登記で使う遺産分割協議書を作成する主なポイントは次のとおりです。

被相続人の情報を正しく記載する

遺産分割協議書では、それが誰の遺産についてのものであるのか特定しなければなりません。そのため、上で挙げた記載例にあるように、次の情報で特定することが多いでしょう。

  • 氏名
  • 生年月日
  • 死亡年月日
  • 最後の住所

これらはいずれも、次の書類を参考に、正しく記載してください。

  • 氏名、生年月日、死亡年月日:被相続人の死亡がわかる戸籍(除籍)謄本
  • 最後の住所:被相続人の除票

書類の概要については、後ほどくわしく解説します。

相続登記をする不動産の情報を正しく記載する

相続登記に使用する遺産分割協議書には、相続登記をする不動産の情報を正しく記載しましょう。記載すべき情報は、上の記載例を参照してください。

これらの情報は、不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)に記載されていますので、記載されている情報を転記します。記載が誤っていたりあいまいであったりして不動産の特定ができなければ、相続登記ができないかもしれません。

全部事項証明書は、全国の法務局から、1通600円で誰でも取得することが可能です。また、有料ではあるものの、オンラインから情報を閲覧することもできます。

「その他の財産」について記載することを検討する

上の記載例では、第3条に、「前条までに記載なき遺産及び後日判明した遺産については、相続人 相続 一郎 が取得する」との記載を入れています。この記載を入れておくことで、今後新たに遺産が判明した際に改めて遺産分割協議をするまでもなく指定の者(例の場合には、相続一郎氏)が遺産を取得することが可能となり、話し合いや手続きの手間が省けます。

その一方で、他の相続人(例の場合には、相続二郎氏)にとっては、後日それなりに大きな遺産が発覚した場合にも自分が受け取れる可能性が低くなるため、このような記載はデメリットともなるでしょう。

そのため、このような「その他の財産」について記載するかどうかは、ケースバイケースで慎重に判断することをおすすめします。

遺産分割協議の成立日を記載する

遺産分割協議書には、遺産分割協議書の成立日を記載します。これは遺産分割協議がまとまった日であり、相続が起きた日以後であればいつであっても構いません。

一方、仮に被相続人の生前に協議がまとまっていたとしても、相続が起きる前の日付を記載することはできませんので、注意しましょう。

相続人全員が実印で押印する

遺産分割協議書へ記載した協議内容への合意を証するため、相続人全員による実印の押印が必要です。1人でも協議に納得しない相続人がいる場合には、遺産分割協議を成立させることができません。

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遺産分割協議書の他に相続登記で必要となる主な書類

相続登記の必要書類は、相続人の状況や遺言書の有無などによって異なります。遺言書がない場合における一般的な必要書類は、遺産分割協議書のほか、次のとおりです。

遺産分割協議書の他の主な必要書類
  • 登記申請書
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等
  • 被相続人の除票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 不動産を相続する人の住民票
  • 不動産の固定資産税評価証明書または評価通知書

登記申請書

登記申請書とは、相続登記のメインとなる書類です。原則としてこの登記申請書のとおりに登記がなされますので、誤りのないよう慎重に作成しましょう。

記載例は法務局のホームページに掲載されており参考になります。

相続人全員の印鑑証明書

遺産分割協議書に押した印が実印であることの証明として、相続人全員の印鑑証明書が必要です。印鑑証明書を代わりに取得するためには、印鑑カードなどを預からなければなりません。そのため、相続人にそれぞれ取得してもらうことが多いでしょう。

被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等

被相続人の相続人を確定するために、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本が必要です。
それぞれ、その当時本籍地を置いていた市区町村役場で取得します。

被相続人の除票

登記されている不動産の名義人と被相続人とが同一人物であることを証するため、被相続人の除票が必要です。除票は、被相続人の最後の住所地を管轄する市区町村役場で取得します。

相続人全員の戸籍謄本

相続人が存命であることを証するため、相続人全員の戸籍謄本が必要です。それぞれ、本籍地を管轄する市区町村役場で取得します。

不動産を相続する人の住民票

新たに名義人となる者の情報を正しく登記するため、不動産を相続する人の住民票が必要です。住所地を管轄する市区町村役場で取得します。

不動産の固定資産税評価証明書または評価通知書

相続登記をする際には、登録免許税を納めなければなりません。この登録免許税は、不動産の固定資産税評価額をもとに算定します。

そこで、この固定資産税評価額を証するために、不動産の固定資産税評価証明書または評価通知書が必要です。これらの書類は、不動産の所在地を管轄する市区町村役場で取得します。

なお、固定資産税評価証明書は1通300円程度と有料である一方で、評価通知書は無料です。

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まとめ

相続登記をする際には、原則として、遺産分割協議書が必要です。遺産分割協議書を作成する際には、今回紹介したポイントを踏まえ正確に作成しましょう。

相続登記には、遺産分割協議書の他にもさまざまな書類が必要となります。相続登記で必要となる書類は多岐にわたるため、自分ですべてを集めることは容易ではありません。

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2016年、司法書士試験合格。東京司法書士会所属。都内の司法書士事務所にて不動産登記を中心に登記業務全般に携わる。その後独立し、2019年、そうぞくドットコム不動産の立ち上げ期から参画し、プロダクトアドバイザーに就任。