不動産の所有権移転登記とは、相続や贈与、売買などで不動産の所有者が変わった際に、法務局で行う名義変更のことです。所有権移転登記をしなければ、自分が新たな名義人となったことを、第三者に主張することができません。
では、所有権移転登記は自分で行うこともできるのでしょうか?今回は、所有権移転登記を自分で行う場合の手順や必要書類、司法書士へ依頼した場合にかかる費用などについて詳しく解説します。
目次
所有権移転登記とは?必要になるケースは?

所有権移転登記とは、不動産(土地や建物)の名義人が変わった際に、その名義が変わったことを法務局で登記する手続きのことです。
法務局で登記をすることで、その不動産が誰のものであるのか、第三者に対しても明確となります。
所有権移転登記をする場面として代表的なものは、次のとおりです。
- 不動産を売買したとき
- 不動産の贈与を受けたとき
- 不動産を相続したとき
- 離婚に伴う財産分与で不動産をもらったとき
不動産を売買したとき
不動産を売買した際には、所有権移転登記が必要です。
売買の場合には、登記手続きのプロである司法書士が登記手続きを代理で行うことが一般的だといえます。
売買の場合の所有権移転登記は売買代金の受け渡しの当日に行うことが原則ですが、お金は支払ったものの万が一書類に不備などがあって登記ができなかったとなれば大問題であるためです。
特に、親族間以外の売買の場合に自分で登記手続きをすることは避けたほうが良いでしょう。
不動産の贈与を受けたとき
不動産の贈与をした場合には、所有権移転登記を行います。
親子間などの贈与の場合には登記を放置してしまうケースも見受けられますが、必ず登記をしておきましょう。
なぜなら、登記をしていないと親が亡くなった際などに贈与の有無をめぐってトラブルになる危険性があるためです。
親子間の贈与の場合には、自分で登記申請をすることも選択肢の一つでしょう。
不動産を相続したとき
不動産の所有者が亡くなり相続が発生した際にも、所有権移転登記を行います。
誰がどの財産を相続するのかについて相続人全員で協議を行い、その協議の結果をまとめた遺産分割協議書を使って登記手続きをすることが一般的です。
特に関係者間に争いがない場合には、自分で相続登記を行うことも選択肢の一つです。
ただし、相続登記には必要書類が多いため、必要書類を集めることに難航する場合も少なくありません。
離婚に伴う財産分与で不動産をもらったとき
離婚に伴う財産分与により、夫または妻から相手方に対して不動産を渡す場合があります。
この場合にも、所有権移転登記の手続きが発生します。
自分で行うことも選択肢の一つですが、離婚に伴う手続きをすみやかに済ませたい場合は、司法書士へ依頼したほうが良いでしょう。
所有権移転登記は自分でできる?
所有権移転登記の手続きは、自分で行うことはできるのでしょうか?
まず、所有権移転登記を自分で行うことが、法律などで禁じられているわけではありません。しかし、自分で所有権移転登記を無理に自分で行えば不都合が生じるケースもありますので、自分で行うかどうかは状況によって検討した方が良いでしょう。
売買や財産分与の場合は自分ですることは避けた方が良い
所有権移転登記が必要となる場面は、上で紹介をしたとおりです。このうち、「売買」や「財産分与」の場面では、自分で所有権移転登記をすることは避けた方が良いでしょう。
なぜなら、たとえば大きなお金が動く売買において、仮に所有権移転の書類にミスがあって登記ができなければ、トラブルの原因となる可能性があるためです。そのため、相手方や融資先の金融機関が、自分での所有権移転登記に難色を示すことも多いでしょう。
また、離婚にともなう財産分与での所有権移転登記にミスがあれば、離婚をした相手が再度の押印に応じてくれず、所有権移転が難しい事態となる可能性があります。
相続や贈与は自分ですることも不可能ではない
「贈与」や「相続」の場面であれば、自分での所有権移転登記を検討する余地があります。ただし、自分で行うのは、後ほど解説をする「所有権移転登記を司法書士に依頼した方が良いケース」以外とした方が良いでしょう。
所有権移転登記を自分で行う場合の流れ

所有権移転登記を自分で行う場合には、次のような流れで行います。
一般的な流れであるため、全体像を理解するための参考としてください。
- 遺産分割協議や契約などをまとめる
- 必要書類を準備する
- 法務局へ申請する
遺産分割協議や契約などをまとめる
初めに、所有権移転登記の前提となる協議や契約などをまとめます。
具体的な例は、次のとおりです。
- 売買の場合:売買契約
- 贈与の場合:贈与契約
- 相続の場合:遺産分割協議、遺言など
- 離婚に伴う財産分与の場合:財産分与の協議など
必要書類を準備する
不動産を移転する契約や協議がまとまったら、所有権移転登記に必要となる書類を準備します。
必要書類については後ほど詳しく解説します。
法務局へ申請する
必要書類の準備ができたら、法務局に所有権移転登記の申請をします。
申請先の法務局は、その不動産の所在地を管轄する法務局です。
所有権移転登記の申請は窓口での申請のほか、郵送やオンラインでの申請も可能ですが、自分で申請をする際には窓口での申請を選択すると良いでしょう。
窓口での申請の場合、不備があればその場で指摘をしてもらえる可能性もあり、内容によってはその場で修正できる場合もあるためです。
なお、オンライン申請にはシステムなどの準備が必要であるため、個人の方がご自身の登記を申請するのみであればおすすめできません。
所有権移転登記の必要書類

所有権移転登記の際に必要となる書類は、次のとおりです。
なお、これらはあくまでも一般的な例であり、これら以外の書類が必要となる場合もあります。
自分で申請をする際には、あらかじめ管轄の法務局の登記相談などを利用し、必要書類についても確認すると良いでしょう。
共通して必要となる書類
所有権移転登記をする際に、共通して必要となる書類は次の3点です。
- 登記申請書
- 新たに不動産の所有者となる人の住民票
- 不動産の固定資産税評価証明書
登記申請書
申請する登記の内容を記した書類です。
内容に不備があれば登記ができない可能性があるため、ミスのないよう正確に記載してください。
法務局のホームページに記載例がありますので参考にされると良いでしょう。
新たに不動産の所有者となる人の住民票
新たな所有者の住所を正しく登記するために必要です。
住所地の市区町村役場で取得できます。
手数料は市区町村によって異なるものの、1通200円から400円程度です。
不動産の固定資産税評価証明書
不動産の名義変更登記をする際には、後ほど解説するとおり、登録免許税がかかります。
登録免許税は不動産の固定資産税評価額に一定の割合をかけて算定するため、その計算のもととなる固定資産税を証明する書類が必要なのです。
固定資産税評価証明書はその不動産がある市区町村役場で取得でき、手数料は1通300円程度です。
相続の場合に必要となる書類
相続に伴い所有権移転登記をする場合には、次の書類が必要です。
ここでは、遺言書ではなく遺産分割協議書で登記をする前提の必要書類を解説します。
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等
- 被相続人の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
遺産分割協議書
遺産分割協議書とは、登記をしようとする不動産を誰が取得するのかについて相続人全員で話し合い、その結果を記載した書類です。
誰がどの不動産を取得したのかがわかるように、明確に記載する必要があります。
相続人全員が協議に納得していることの証明として、相続人全員が実印で捺印します。
相続人全員の印鑑証明書
相続人全員の印鑑証明書は、遺産分割協議書に押した印が実印であることの証明のために添付します。
それぞれの相続人の住所地の市区町村役場で取得します。
市区町村によっては、マイナンバーカードを持っていることを条件にコンビニエンスストアなどで発行が受けられる場合もあります。
取得手数料は市区町村によって異なりますが、1通300円前後であることが一般的です。
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等
相続人を確定するために、亡くなった方(「被相続人」といいます)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本を添付します。
被相続人の兄弟姉妹が相続人になるケースでは、これに加えて被相続人の両親の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本も必要です。
それぞれ、その時点の本籍地を管轄する市区町村役場で取得します。
取得手数料は戸籍謄本であれば1通450円、除籍謄本と原戸籍謄本は1通750円で、全国一律です。
被相続人の除票または戸籍の附票
被相続人の最後の住所を証明するために、除票または戸籍の附票が必要です。
除票は被相続人の最後の住所地の市区町村役場で、戸籍の附票は最後の本籍地の市区町村役場で取得します。
取得手数料は市区町村によって異なりますが、1通300円前後であることが一般的です。
相続人全員の戸籍謄本
相続人の生存を確認するために、相続人全員の戸籍謄本が必要です。
それぞれの相続人の本籍地を管轄する市区町村役場で取得します。
取得手数料は、1通450円です。
売買・贈与・財産分与の場合に必要となる書類
売買や贈与、財産分与の場合には、次の書類が必要となります。
契約書など
所有権移転登記の原因が生じていることの証明として、契約書などが必要です。
具体的には次のものを添付することが多いと言えますが、状況によって異なります。
- 売買:売買契約書など
- 贈与:贈与契約書など
- 離婚に伴う財産分与:離婚の記載のある戸籍謄本や調停調書など
権利書または登記識別情報
売買や贈与、財産分与で所有権移転登記をする場合には、不動産の元々の所有者が所有している権利書(登記済証)または登記識別情報が必要です。
登記識別情報とは従来の権利書にあたるもので、アラビア数字その他の符号の組合せからなる12桁の符号を指します。
登記別情報は、登記識別情報が記載された部分が目隠しされている書類で通知をされることが一般的です。
権利書や登記識別情報は、再発行を受けることはできません。
万が一紛失してしまっている場合であっても所有権移転登記ができないわけではありませんが、その場合には別の手続きが必要となります。
所有権を渡す人の印鑑証明書
所有権を渡す人が登記名義人本人であり、かつ本人の意思で所有権を渡すことを確認するために、所有権を渡す人の印鑑証明書が必要です。
所有権移転登記を司法書士に依頼した方が良いケース
先ほど解説したとおり、贈与や相続の登記であれば、自分で所有権移転登記を行う余地があります。ただし、次のいずれかに該当する場合には司法書士へ依頼した方が良いでしょう。
数次相続が起きているなど複雑な場合
たとえば、数次相続が起きているなど複雑な内容である場合には、所有権移転登記を無理に自分で行わず、司法書士へ依頼した方が良いでしょう。
数次相続とは、所有権移転登記をしようとする不動産が何十年も前に亡くなった祖父名義であり、その後父も亡くなっているなど、複数回にわたる相続が起きている場合などです。このような場合には書類の書き方や必要となる書類が通常のケースとは異なるため、自分で行うにはハードルが高いといえるでしょう。
平日の日中に何度も時間が取れない場合
所有権移転登記の手続き先である法務局は、平日の日中にしか開いていません。また、所有権移転登記に必要となる多くの書類の取り寄せ先となる市区町村役場も、原則として平日日中のみの開庁です。
そのため、平日の日中に何度も時間を取ることが難しい場合には、自分で所有権移転登記をするハードルが高くなるでしょう。
手続きの手間をかけたくない場合
所有権移転登記を自分ですべて行おうとすれば、多くの時間や手間が生じてしまいます。自分で行おうとしたものの、思った以上に時間や手間がかかってしまい、こんなことなら始めからプロに頼めば良かったと後悔することも多いでしょう。
そのため、手続きに手間や時間を掛けたくない場合には、無理に自分で行うことはおすすめできません。
登記完了を急ぐ事情がある場合
自分で所有権移転登記をするには1つずつ調べたり法務局に予約を取って相談したりする必要があり、完了までに時間がかかりやすいでしょう。また、登記申請後も不備などがあれば法務局から補正(修正)の指示が入り対応が必要となるため、登記完了がさらに遅くなります。
そのため、登記完了後に売買を控えているなど所有権移転登記の完了を急ぐ場合には、司法書士へ手続きを依頼した方が良いでしょう。
所有権移転登記を依頼した場合の費用相場

所有権移転登記を司法書士へ依頼した場合には、次の費用がかかります。
- 司法書士報酬
- 登録免許税
- 書類の取得費用など
なお、このうち「登録免許税」と「書類の取得費用など」は自分で登記手続きをした場合であっても同様にかかる費用です。
司法書士報酬
所有権移転登記にかかる司法書士報酬は法令などで一律に定められているわけではなく、その事務所によって異なります。
一応の目安としては、所有権移転登記の報酬は7万円から10万円くらいであることが多いといえます。
ただし、次の場合には追加の費用がかかることがあります。
- 相続関係を証する書類の収集から依頼する場合
- 遺産分割協議書の作成から依頼する場合
- 相続人の数が多い場合
- 権利書を紛失しているなど追加の書類が必要となる場合
- 登記する不動産の数が多い場合
なお、その報酬額のみならず報酬の計算方法も事務所間で統一されているわけではありません。
そのため、具体的な費用を知るためには所有権移転登記の依頼を検討している司法書士事務所へ見積もりを取る必要があります。
登録免許税
所有権移転登記をする際に無視することができない費用に、登録免許税があります。
場合よっては、司法書士報酬よりも高額となる場合もあります。
登録免許税は、登記をする不動産の固定資産税評価額に一定の率をかけて算定します。
この計算のもととなる固定資産税評価額は、上で解説をした固定資産税評価証明書を取得することで確認することができる他、固定資産税課税明細書で確認をすることも可能です。
固定資産税課税明細書とは、毎年4月から6月頃に市区町村役場から送付される固定資産税の納付書類に同封されている不動産が一覧となった書類です。
相続や法定相続人への遺贈の場合
相続の場合や、遺言で法定相続人に対して財産を遺贈する場合の登録免許税は、土地建物ともに固定資産税評価額の1,000分の4です。
法定相続人以外への遺贈の場合
法定相続人以外に遺言で財産を遺贈する場合の登録免許税は、土地建物ともに固定資産税評価額の1,000分の20です。
売買の場合
売買の場合の登録免許税は、原則として土地建物ともに固定資産税評価額の1,000分の20です。
ただし、売買の場合に土地にかかる登録免許税は、令和5年3月31日までの間に登記を受ける場合には1,000分の15へ軽減されています。
また、個人が取得した住宅用家屋の所有権の移転登記は令和4年3月31日までに自己の居住の用に供した場合に限り1,000分の3とされています。
軽減税率の適用には要件があるほか一定の手続きが必要となりますので、詳しくは司法書士などの専門家へ相談するようにしてください。
贈与の場合
贈与の場合の登録免許税は、土地建物ともに固定資産税評価額の1,000分の20です。
離婚に伴う財産分与の場合
離婚に伴う財産分与で不動産を移転する際の登録免許税は、土地建物ともに固定資産税評価額の1,000分の20です
書類の取得費用など
先ほど解説したとおり、所有権移転登記をするにはいくつかの添付書類が必要です。
売買や贈与、離婚に伴う財産分与の場合には取得すべき書類はそれほど多くはないため、書類取得にかかる費用は数千円程度であることが多いでしょう。
一方で、相続の場合には戸籍などの書類が多く必要となることから、子や配偶者が相続人である場合で1万円前後、兄弟姉妹や甥姪が相続人である場合には必要書類がさらに増えることから2万円前後が目安です。
被相続人の転籍回数が多い場合や相続人が多い場合などは、これ以上の費用がかかる場合もあります。
まとめ
所有権移転登記は、自分で行うことが禁じられているわけではありません。しかし、第三者との売買や財産分与などではミスが許されないため、自分で行うことは避けた方が良いでしょう。
一方、所有権移転登記の中でも、相続登記は自分で行える可能性が高いものの一つです。ただし、収集すべき書類が多く大変な手間がかかってしまう点と、登記申請書を正確に作成することが困難だという点がハードルになる場合も多いでしょう。
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