【2024】不動産相続の手続きは何が必要?流れ・費用・登記手続き・相続税申告方法

不動産相続不動産
この記事を監修した専門家は、
牛腸真司
税理士
立命館大学卒業2011年、税理士登録。税理士登録番号は118275。2012年 東京都港区益本公認会計士事務所(現税理士法人総和)にて資産税対策専任。2015年 千葉県税理士会登録。千葉県税理士会松戸支部広報部員。

相続財産に不動産が含まれる場合、相続税申告や相続登記などさまざまな手続きが必要になります。いざ相続が起きると何かと大変になりますが、不動産の相続手続きをスムーズに終えるためにも、どんな手続きが必要なのか、あらかじめ理解しておくことが大切です。

そこでこの記事では、不動産相続の手続きの流れや必要な費用、不動産を相続する方が押さえるべきポイントなどを解説していきます。

目次

不動産を相続することになったらどうする?誰に相談すれば良い?

相続財産の中に不動産がある場合や、自分が不動産を相続することになった場合に困りごとが生じたら、どの専門家に相談すれば良いのでしょうか?実は、相談すべき相手はその困りごとの内容によって異なります。

ここでは、代表的な3つのケースについて相談すべき先を解説します。

不動産の相続について法的な争いがある場合

不動産の相続について法的な争いがある場合には、弁護士へ相談しましょう。法的な争いとは、たとえばある不動産を自分が相続したいと考えている一方で他の相続人もその不動産をほしいと主張している場合や、自分が不動産を相続すると書かれた遺言書について他の相続人が無効を主張している場合などです。

また、名義こそ亡くなった人(「被相続人」といいます)であるものの、実際には購入資金を拠出した自分のものであると主張している相続人がいる場合や、その不動産は被相続人の生前に自分が被相続人からもらった(買った)ものであると主張する相続人がいる場合もあることでしょう。

他にも、相続人間では争いはないものの、隣家の住人が越境して無断で塀を設置したなど、第三者との間で争いがある場合などが考えられます。いずれにしても、不動産の相続に関して法的な争いがある場合には、弁護士へ相談してください。

その相続に相続税がかかりそうな場合

相続税は、不動産などの遺産に対してかかる税金です。ただし、相続税には基礎控除額が設けられています。遺産総額に被相続人が行った過去の一定の贈与を合計した金額が、次の式で算定される「基礎控除額」を超えなければ相続税はかかりません。

  • 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

たとえば、法定相続人が3名である場合の基礎控除額は4,800万円(=3,000万円+600万円×3名)、法定相続人が5名である場合の基礎控除額は6,000万円(=3,000万円+600万円×5名)です。

この基礎控除額を超える遺産がある場合には、相続税がかかる可能性が高いといえます。

相続税の試算や相続税申告ができる専門家は、税理士です。不動産の相続に関する主な困りごとが相続税についてのことである場合には、税理士へ相談しましょう。

不動産の名義変更を依頼したい場合

主な困りごとが不動産の名義変更登記に関することである場合には、司法書士へ相談しましょう。

司法書士は、相続登記など法務局に関する手続きの専門家です。他にも、相続放棄や相続人に認知症の人がいる場合の成年後見人申立て手続きなど、家庭裁判所関連の手続きを依頼することもできます。

 

相続登記に必要な書類を作成したり相続登記を代行したりできる専門家は司法書士ですので、覚えておくと良いでしょう。

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不動産を相続するときの手続きの流れ

綺麗な住宅の街並み
まずは不動産を相続するときの手続きの流れについてです。

ご家族が亡くなって相続が起きたら、次のような流れで手続きを進めていきます。

不動産を相続するときの手続きの流れ
  1. 相続人調査・相続財産調査
  2. 遺言書の有無の確認
  3. 遺産分割協議
  4. 相続登記・相続税申告

ステップ①:相続人調査・相続財産調査

相続が起きたら、遺産を相続する権利を持つ人(相続人)が誰なのか確認する必要があります。親族であれば誰でも遺産を相続できるわけではなく、相続権を持つ法定相続人は法律で決まっているからです。

そこで、亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍を取り寄せて相続人調査を行います。そして、相続の対象になる遺産に何が含まれるのかを確認する相続財産調査も必要です。故人の自宅で遺品整理をしたり銀行預金の口座残高などを確認したりします。

また、現預金や不動産のようなプラスの遺産だけでなく、借金などのマイナスの遺産も相続の対象になる点には気を付けなければなりません。消費者金融からの借入金やカード残高がないか、信用情報機関にも照会を行って確認しましょう。

ステップ②:遺言書の有無の確認

遺言書が残されていて遺産の分け方が指定されているのか、遺言書がなくて相続人で話し合って遺産の分け方を決めなければならないのか、遺言書の有無によって手続きの流れが変わります。そのため、遺言書が残されているかどうかも確認が必要です。
故人の部屋の中に自筆証書遺言が保管されている場合もありますし、公正証書遺言が公証役場に保管されていることもあります。

また、2020年7月からは法務局で遺言書を保管する制度も始まっているので、法務局にも照会を行いましょう。

ステップ③:遺産分割協議

遺言書が残されていない場合や、一部の遺産の分け方しか遺言書で指定されていない場合には、遺産をどう分けるのか相続人で話し合わなければなりません。遺産の分け方を話し合うのが「遺産分割協議」で、協議して合意した内容をまとめる書類が「遺産分割協議書」です。

相続人が直接集まって話し合う形でも、メールや電話で意見を調整する形で協議しても構いません。

ただし、参加すべき相続人全員が協議に参加していないと協議自体が無効になるので、相続人調査で把握した相続人すべてが参加して協議を行います。なお、行方不明者がいて全員が揃わない場合には、不在者財産管理人の選任または失踪宣告の手続きが必要です。

ステップ④:相続登記・相続税申告

遺産分割協議によって誰が不動産を相続するか決まったら、不動産の名義を変える相続登記の手続きを行います。亡くなった方の名義になっている土地や建物を、相続する人の名義に変えて不動産の権利者として登録する大切な手続きです。相続登記の手続き期限は特に決まっていませんが、早めに終えるようにしましょう。

また、相続税の申告義務が生じる場合には、相続税の申告・納税の手続きを行います。相続税の申告期限は10ヶ月で、納税義務があるにも関わらず期限までに納税をしないと、延滞税などの高額な罰金が科されるので注意が必要です。

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不動産を相続するときに必要な費用

不動産に関する計算

土地や建物といった不動産を相続する場合、相続手続きを進める中でさまざまな費用がかかります。遺産のほとんどを不動産が占めて現預金があまりないようなケースでは、費用に充てる現金は相続人自身が用意しなければなりません。

主に次のような費用がかかるので、それぞれ一体どれくらいの費用がかかるのかを確認しておきましょう。

不動産相続に必要な費用
  • 相続税
  • 登録免許税
  • 必要書類の取得費用
  • 専門家に依頼した場合の支払報酬

費用①:相続税

遺産の総額が相続税の基礎控除額を超える場合には、相続税がかかります。

  • 相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × (法定相続人の数)

相続税額の計算方法は後で解説しますが、たとえば遺産が現金1億円・相続人が子1人のケースでかかる相続税は1,220万円です。高額な資産である不動産が遺産に含まれる場合には、相続税の基礎控除額を超えることも多くなって相続税の納税が必要になるケースも少なくありません。

ただし、一定の条件を満たす相続人が土地を相続する場合には、土地の価格を50%または80%減額してから相続税を計算する特例制度があるため、相続税がかからないケースもあります。

費用②:登録免許税

不動産を取得するときにかかる税金には不動産取得税と登録免許税があり、相続で不動産を取得する場合は、不動産取得税はかかりませんが登録免許税はかかります。相続によって不動産を取得する場合の登録免許税の税額は、課税標準に原則として税率0.4%をかけた金額です。

たとえば、課税標準が5,000万円の不動産を相続するのであれば、相続登記の手続きを行う際に登録免許税20万円(=5,000万円×0.4%)を納付することになります。

費用③:必要書類の取得費用

相続手続きを進める際の必要書類はケースごとに異なりますが、故人や相続人の戸籍謄本をはじめとしてさまざまな書類が必要になります。市区町村役場などで必要書類を発行する際の費用は1通あたり数百円程度です。

ただし、書類が何種類も必要になることもあるので意外と費用がかさみ、市区町村役場に直接出向く場合には交通費も、郵送で取り寄せる場合には郵送費もかかります。

費用④:専門家に依頼した場合の支払報酬

相続登記を司法書士に、相続税申告を税理士に依頼するなど、相続の手続きを専門家に依頼した場合には報酬の支払いが必要です。専門家に依頼した場合の報酬は事務所ごとに異なり、税理士に依頼した場合の相続税申告の基本報酬は遺産総額の0.5%~1.0%、相続登記を司法書士に依頼した場合の報酬は6万円~8万円が相場です。

専門家に依頼したときにかかる費用は決して安くありませんが、相続税申告や相続登記の手続きは慣れていない一般の方には難しいので、専門家に任せてしまったほうが良いでしょう。結果として自分で手続きをするよりも、ご自身の負担が少なく済んで手続きも早く終わります。

さらに、そうぞくドットコムであれば、戸籍の取得費も込みの定額で相続登記のサポートを行っているので、費用を抑えて専門家に依頼したい方におすすめです。

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不動産を相続するときの分割方法

住宅街

相続が起きたときに相続人が2人以上いる場合には、遺産の分け方、つまり遺産の分割方法を話し合って決めなければなりません。そして、遺産に不動産が含まれる場合には、不動産は現金のように簡単には分割できないため、どのような分割方法を選択して不動産を相続するのかが問題になります。

遺産の分割方法には次の4つの方法がありますが、どの方法を選ぶべきかは相続が起きたときの状況によって異なるので、それぞれの遺産分割方法の特徴を理解しておくことが大切です。

不動産相続の分割方法
  • 現物分割
  • 代償分割
  • 換価分割
  • 共有分割

方法①:現物分割

遺産をそのままの形で現物のまま相続するのが「現物分割」で、ご家族の残した大切な財産を売却などせずに相続できる点がメリットです。

たとえば、遺産に含まれる土地を分筆して相続人で分けるようなケースが現物分割に該当します。ただし、土地の面積がそもそも大きくなく、分筆してしまうと利用価値が下がるようなケースでは現物分割はデメリットが大きくておすすめできません。

方法②:代償分割

ある相続人が不動産を相続すると、その相続人の遺産の受取額が大きくなってしまい、他の相続人と不公平になることも少なくありません。このような場合に、多めに遺産を受け取った人が代償として自分の財産を渡す方法が「代償分割」です。

たとえば、兄が不動産7,000万円を、弟が現金1,000万円を相続して、兄が自分の預金から3,000万円を弟に渡して双方の受取額を4,000万円に調整するケースが代償分割に該当します。次の換価分割のように遺産を売却せずに済み、大切な遺産をそのままの形で相続できて相続人同士の公平性を保てる点がメリットです。

ただし、代償として渡せる資産があることが前提となるので、不動産を相続する人がまとまった財産を既に所有している場合でなければ選択できません。

方法③:換価分割

「換価分割」とは、遺産を売却して得た現金を相続人で分ける方法です。不動産を相続しても使い道がなくて困るような場合でも、現金化すれば相続人の間で平等に分けることができます。

遺産を売ってしまうのでそのままの形で残せない点はデメリットですが、相続人同士の公平性を保てる点がメリットです。

方法④:共有分割

不動産を複数の人の共有名義にすることができ、遺産に含まれる不動産を相続人で共有して相続するのが「共有分割」です。相続人で平等に不動産を相続できる点は公平でありメリットと言えますが、共有者全員の同意がないと売却や建築ができなくなるため共有分割はデメリットも大きくなります。

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不動産の相続税申告

相続税申告書

相続が起きた場合でも、相続税の納税義務が生じる場合と生じない場合があるので、必ずしも相続税の申告や納税の義務が生じるわけではありません。そのため、財産を相続する相続人は、相続税の納税義務が生じる基準を理解しておく必要があります。

また、遺産に土地が含まれる相続では、税額が軽減される特例制度が適用できて思ったほど相続税がかからないケースもあるので、軽減制度についても理解しておくことが大切です。ここでは、相続税の計算方法や申告期限、軽減制度について紹介していきます。

相続税の計算方法

相続税を計算する際、遺産額そのものに税率をかけるわけではありません。遺産額から基礎控除額を引いてから税率をかけるので、相続する遺産の総額が基礎控除額以下であれば、相続税は生じないことになります。

  • 相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × (法定相続人の数)

そして、相続税は次のように計算します。

相続税の計算手順
  1. 遺産額の計算:相続税の課税対象となる遺産額を計算
  2. 課税遺産総額の計算:遺産額から基礎控除額を控除
  3. 相続税の総額の計算:各自が法定相続分に基づいて相続した場合の相続税額を計算して合計
  4. 各自の納付税額の計算:上記の相続税の総額を各自の実際の相続割合に基づいて按分

たとえば、遺産総額が現金1億円・相続人が子2人で、それぞれ遺産の半分にあたる5,000万円ずつを相続するケースの相続税額を計算してみましょう。なお、相続税の税率は遺産額が大きくなるほど税率が高くなる仕組みで、このケースでは税率は15%です。

また、相続人が2人なので基礎控除額は4,200万円(=3,000万円+600万円×2)です。

相続税の計算例
  1. 遺産額の計算:現金1億円
  2. 課税遺産総額の計算:遺産総額1億円 – 基礎控除額4,200万円 = 5,800万円
  3. 相続税の総額の計算:(5,800万円/2人 × 税率15% - 控除額50万円) × 2人 = 770万円
  4. 各自の納付税額の計算:770万円 ÷ 2人 = 385万円

つまり、子1人あたりの相続税額は385万円です。

相続税計算における不動産価格の評価方法

相続税を計算するとき、最初に個々の遺産の金額を合計して遺産額を求めますが、遺産額に加える不動産の価格は相続税評価額を使います。売却したときにいくらで売れるのかという市場価格を使うわけではありません。

そして、土地と家屋では計算方法が異なり、土地の場合は次の2種類の価格評価方法があります。

評価方法
  • 路線価方式:土地の面積などをもとに算出する
  • 倍率方式:固定資産税評価額に一定の倍率をかける

相続する土地にどちらの評価方式が適用されるのかは、あらかじめ確認が必要になります。また、家屋の場合は、相続税評価額として使う金額は固定資産税評価額です。

そして、賃貸されている土地や家屋の場合には、借地権割合や借家権割合を考慮するので相続税評価額が下がり、また騒音など周辺土地の形状などの事情が考慮されて土地の相続税評価額が下がるケースもあります。

相続税を安くする方法

相続税には税額が軽減されるさまざまな特例制度があります。その中でも、不動産を相続するときに使えることが多い制度が「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減」の2つです。

制度を利用できるのは一定の条件を満たす場合に限られますが、条件を満たす人が不動産を相続すれば、相続税負担を大幅に軽減できます。

小規模宅地等の特例

亡くなった方と一緒に暮らしていた方が住んでいる土地を相続する場合など、一定の条件を満たすケースでは土地の評価額が50%または80%減額されます。小規模宅地等の特例と呼ばれる制度で、故人と生活していた人が土地を相続するケースなどで使える制度です。

たとえば、居住用の土地1億円を相続する場合でも、小規模宅地等の特例を適用できると、80%減額された後の最低2,000万円しか課税対象になりません。他の遺産と合計して基礎控除額以下であれば、相続税はかからないことになります。

ただし、この特例制度を使った結果として相続税がゼロになる場合でも、申告手続きは必要です。申告を行って初めて特例制度が適用できて相続税が軽減されるので、忘れずに相続税申告の手続きを行ってください。

配偶者の税額軽減

ご夫婦の一方が亡くなった場合には、配偶者が遺産を相続することも多く、その際に使える相続税の軽減制度が配偶者の税額軽減です。配偶者が遺産を相続する場合には、最低でも1億6,000万円の遺産まで相続税がかかりません。

故人の資産形成に大きく寄与した存在として、配偶者は遺産を相続する権利が当然あるので、税制上配慮されています。なお、配偶者の税額軽減を適用するためには相続税の申告手続きが必要です。

相続税の申告期限

相続税の申告・納税の義務がある場合には、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告しなければなりません。極めて特殊な場合を除くと10ヶ月という期限が延長されることはなく、財産調査や遺産分割協議が間に合わない場合でも、必ず期限内に手続きが必要です。

なお、相続税の申告期限までに遺産分割協議が終わらない場合には、誰がどれだけ遺産を相続するのか決まらず、相続税額も確定できません。この場合には、法定相続分に従って相続したものとしていったん税額を計算して納税し、遺産分割協議が完了した時点で税額を計算し直して精算します。

そして、申告期限までに手続きを行わないと、延滞税や無申告加算税といった罰金が科され、悪質と判断されると重加算税という非常に重たい罰金まで科されます。ご家族が残してくれた大切な財産が罰金の分だけ減ってしまっては元も子もないので、不安な場合には税理士に相談して、早めに手続きを終えるようにしましょう。

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不動産を相続するときのケース別ポイント

建売の住宅群

一言に不動産を相続すると言っても、どのような不動産を相続するのかによって、かかる費用や相続時に意識すべきポイントは変わります。相続税や登録免許税がかかり、不動産取得税がかからない点は不動産相続で共通していますが、ケース別により詳しく見ていきましょう。

ケース①:土地のみを相続する場合

建物が建っていない土地、つまり更地を相続する場合は、居住用や事業用ではないので小規模宅地等の特例は使えません。そのため、減額されずに土地の価格そのものに相続税がかかるので一般的に税負担が重たくなります。

一方で、更地であれば相続後の活用方法の選択肢の幅が広がる点はメリットです。自宅やアパートを建てたり、土地そのものを貸し出して地代を得たりすることもできます。

ケース②:土地と自宅を相続する場合

故人と一緒に暮らしていた相続人が土地と自宅を相続するような場合には、不動産を相続した人が遺産を多く受け取ってしまうことも多く、代償分割を行うことが多くなります。小規模宅地等の特例によって相続税負担は軽減できることも多くなりますが、不動産を売却して現金を得るわけではなく、代償として渡せる資産を相続人が別途持っていなければなりません。

また、配偶者が土地と自宅を相続するケースでは、所有権と分けて配偶者居住権のみを相続して、相続する遺産額や代償として渡すべき金額を抑える方法もあります。ただし、配偶者居住権を設定すると不動産の売却ができなくなるなど、デメリットもあるので注意が必要です。

ケース③:借地権を相続する場合

自宅が借地の上に建っている場合は、土地は地主のものなので相続対象ではありません。しかし、その土地を使う権利である借地権は故人が所有していた権利であり、相続人が相続する相続財産の一つです。

借地権の相続税評価額の計算方法は、一般的な借地権であれば、自用地としての価格に借地権割合を乗じて求めます。しかし、借地権にはさまざまな種類があり計算方法が異なる場合があるため、相続税の計算は税理士に依頼するようにしましょう。

また、借地権を譲渡する場合などには地主の承諾がないと譲渡できませんが、相続で借地権を取得する場合は、地主の承諾は不要です。借地権の相続を地主に拒否されてその土地を追い出されるといったことはないため、借地権を相続する人は相続する旨を地主に伝えれば問題ありません。

ケース④:マンションを相続する場合

マンションの一室を相続する場合には、マンションが建っている土地全体を相続するわけではありません。相続税などの税金の計算では、持分割合を考慮して税額を計算することになります。

また、相続人が住む場合にはリフォーム費用などがかかり、相続したマンションを売却する場合には、一般的には不動産会社への仲介手数料の支払いなどが必要です。マンションがいくらで売れるのか、売却価格は築年数などによって変わるので、事前に不動産会社などに査定を依頼して確認するようにしましょう。

ケース⑤:アパートなどの賃貸物件を相続する場合

故人がアパート経営をしていて土地とアパートを相続する場合には、借地権割合や借家権割合などが考慮される結果、相続税は一般的な住宅よりも安くなります。相続人がアパートの賃貸経営を引き継ぐのであれば、固定資産税や維持管理費などの支出と家賃収入を比較して採算が取れるのかをあらかじめ確認してから相続するようにしましょう。

また、会社員の方が賃貸経営を始め、不動産所得(または事業所得)を得るようになると、所得税の確定申告が必要になることも多いので忘れずに申告手続きを行ってください。

ケース⑥:相続した不動産をすぐに売却したい場合

相続した不動産をすぐに売却したい場合は、まずは不動産会社などに依頼して査定してもらい、いくらで売れるのか確認が必要です。そして、不動産を相続した後に売却して売却益が生じると、所得税や住民税がかかります。

また、売却するタイミングが相続発生日後3年以内などだと所得税や住民税が軽減される特例制度があるため、不動産を売却する場合には3年以内に売却することで税負担を抑えることが可能です。なお、相続した不動産を売却する場合には、相続登記が完了している必要があります。

故人の名義のままでは売却できないので、相続後にすぐに売却したいのであればまずは相続登記の手続きを早く終わらせるようにしてください。

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不動産を相続するときの注意点

相続放棄に関するその他のポイント

不動産を相続するときには注意すべき点がいくつかあります。何も考えずに不動産を相続してしまうと、相続した後に気付いても手遅れで困ることにもなりかねません。不動産を相続する際には、次の点に注意しながら対応するようにしてください。

不動産を相続するときの注意点
  • 負動産化・空き家問題化する可能性が高ければ相続放棄を検討する
  • 限定承認を選択するには相続人全員の同意が必要
  • 不動産の相続トラブルを避けるためには遺言書を活用する
  • 遺産に未登記建物が含まれる場合は1カ月以内に手続きが必要
  • 配偶者居住権はデメリットも多いので活用は慎重に検討する

注意点①:負動産化・空き家問題化する可能性が高ければ相続放棄を検討する

不動産を相続すると、固定資産税や維持管理費などの費用がかかります。現金を相続する場合のように費用が発生しないわけではないため、この点には注意が必要です。

使う予定のない不動産を相続してしまい、相続した後になって売却しようとしても買い手が見つからないと、ただ費用だけがかかる負動産になってしまいます。

利用価値のない不動産の場合は行政に寄付しようとしても拒否されることも多いため、このような場合に不動産を手放すのであれば相続後ではなく相続前に判断しなければなりません。

負動産化して放置したり空き家問題化したりして管理責任を問われるような事態を避けるためにも、場合によってはそもそも不動産を相続しない相続放棄の検討も必要です。

相続放棄をすると不動産以外の遺産も含めてすべての遺産を相続できなくなりますが、不動産を相続するのか相続放棄をするのか、相続の時点でしっかり検討するようにしましょう。

注意点②:限定承認を選択するには相続人全員の同意が必要

家族の残してくれた大切な土地や自宅は相続したいものの、亡くなった方に多額の借金があって相続するか相続放棄をするか悩むケースもあります。この場合には、現預金などのプラスの遺産の範囲内で、借金などのマイナスの遺産を相続する限定承認を行うことも一つの選択肢です。

ご家族が残した大切な土地や建物を残せる可能性があります。ただし、限定承認は相続人全員の同意がなければ行えません。相続人が1人でも反対すると限定承認はできないので、実際には限定承認はあまり使われていない方法です。

注意点③:不動産の相続トラブルを避けるためには遺言書を活用する

遺産に不動産が含まれるケースでは、相続人同士でトラブルが起きることも多くなります。ただし、そもそも遺産の分け方を巡って相続人同士で争うケースというのは、遺言書が残されていないケースです。

財産を残す方が生前に遺言書を作成して遺産の分け方を指定しておけば、相続人が揉める余地がなくなります。遺言書の形式は自筆証書遺言でも公正証書遺言でも良いでしょうし、2020年7月からスタートした法務局で遺言書を保管するサービスを利用しても良いでしょう。

注意点④:遺産に未登記建物が含まれる場合は1ヶ月以内に手続きが必要

相続した建物の登記がされておらず、いわゆる未登記建物だった場合には、1ヶ月以内に手続きが必要です。
手続きを怠ると10万円以内の罰金が科されてしまいます。

ただ、不動産の相続登記を最初から司法書士に依頼しておけば、未登記建物の登記手続きが漏れるような心配は基本的にないので安心です。

注意点⑤:配偶者居住権はデメリットも多いので活用は慎重に検討する

2020年4月から配偶者居住権という新しい制度が始まりました。配偶者居住権とは、配偶者が自宅を相続する際に住む権利である居住権のみを相続できる制度で、所有権と配偶者居住権を分けて相続ができる制度です。

たとえば、配偶者が配偶者居住権を相続し自宅の所有権は子が相続すれば、配偶者が相続する遺産額が減って仮に代償分割を行う場合でも配偶者が代償として渡す財産を減らすことができます。つまり、配偶者は自身の資産を減らすことなく生活に困らずに済む制度です。

ただし、配偶者居住権にはデメリットも多く、たとえば配偶者居住権を登記してしまうと自宅の売却ができなくなります。そのため、不動産を相続した後に売却する可能性がある場合には注意が必要です。

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まとめ

不動産の相続では相続登記や相続税申告などさまざまな手続きを進めなければなりません。また、どのように不動産の遺産分割を行うのが良いのか、相続が起きたときの状況や相続人の考え方などを踏まえて最善の遺産分割方法を考える必要があります。
相続の手続きに慣れていない一般の方がご自身で手続きをするのは簡単ではありませんし、仕事があって平日の日中に役所で手続きするのが難しい場合もあるはずです。そのため、相続が起きたときには、早めに専門家に相談するようにしましょう。

そうぞくドットコム不動産であれば、時間も手間もかかる相続登記の手続きでもスムーズに終えられるようにサポートできる体制が整っています。

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