お通夜や葬儀・法要の席などでは、精進料理を用意したり頂く機会も多いものです。
精進料理は、仏道にのっとり野菜をメインにして作られる料理なので、近年では健康食としても注目されるようになりました。
しかし、いざ自分で精進料理を用意しようと思うと、基本的なルールや具体的なメニューなどで悩むことも少なくありません。
そこで、今回は精進料理の基本ルールや使っても良い食材、精進料理を用意する時の注意点などについて詳しく紹介します。
精進料理とは
精進料理とは、仏教の教えを強く反映した和食の一つで、日本の伝統的食事として長く受け継がれてきました。
精進料理の「精進」とは、食事に対する欲を控えて粗食を心がけ、精神的な鍛錬を行うという意味を持ちます。
つまり、仏教の教えに従いご馳走を控え、動物性の食品を口にせず野菜や穀物のみを摂取することで、自らの食に対する欲を律するのです。
このような背景から、仏事では精進料理がメインとして振る舞われ、「命をいただくありがたみ」を感謝しながら頂きます。
仏教の影響が強い精進料理ですが、野菜を中心にした料理はヘルシーであることから、近年では健康食としても広く取り入れられるようになりました。
精進料理の本来の意味や、守るべき基本ルールなどを知って、日本の伝統食である精進料理を用意してみましょう。
精進料理の基本ルール
精進料理には、仏教の教えに従って守らなければならない基本ルールがあります。
では、具体的にどのようなルールがあるのか、その内容をみてみましょう。
肉・魚・甲殻類を使わない
精進料理では、肉・魚・エビや蟹などの甲殻類を使ってはいけません。
これらの食材は、元を辿れば生きている動物であり、人間と同じように痛覚があると考えられています。
それを食べるために殺生して痛みや苦しみを与える行為は、「魂を救うこと」「痛みや苦しみを取り去ること」を大切にする仏教に反する行為です。
「植物も生きているではないか」という人いますが、植物には痛覚がないという意見や、仏様からの恵みを頂くという考え方があるので、野菜や果物などは食べても問題ありません。
「人間と同様に足があって動くもの」がタブーとされますので、この点に注意してください。
香辛料を使わない
料理にアクセントを添える香辛料も、精進料理では使えないものの一つです。
香辛料には、「食べたい」という煩悩を刺激する効果があるため、精進料理には向いていません。
具体的な例としては、唐辛子・コショウ・しょうがといった、「辛味が強く味が濃いもの」が使えないとされています。
精進料理を用意する時は、香辛料を使わないようにしましょう。
食欲を増進させる食材を使わない
精進料理では、野菜や穀物をメインの食材として使用します。
しかし、野菜の中でも「食欲を増進させる食材」は、精進料理に使用してはなりません。
具体的には次のような食材です。
- ねぎ
- ニラ
- にんにく
- らっきょう
- ギョウジャニンニク
これらの食材は「五葷(ごくん)」と呼ばれており、匂いが強く食欲を増進させるため、精進料理では避けるべき食材とされています。
ただし、地域によってはタマネギも避けるケースがありますので、気になる場合は一度周囲の人に確かめてみましょう。
精進料理に相応しい食材
控えなければならない食材がある精進料理ですが、詳しく調べてみると意外に多くの食材が使えます。
ここでは、精進料理に相応しい食材を種類別に分けて紹介しますので、精進料理を用意するときの参考にしてみてください。
野菜類
精進料理で使用できる野菜は、先ほど紹介した「五葷」以外の食材であれば、そのほとんどを使用できます。
ニンジン・ゴボウ・大根・れんこんなどの根菜で煮物をしたり、山菜を使用した天ぷらや和物、ほうれん草のおひたしやきゅうりの酢の物など、かなり豊富なメニューが可能です。
また、椎茸などのキノコ類は、良い出汁が出るので煮物の具材としてだけではなく、出汁を取るためにも欠かせません。
食べ方を工夫すれば、キャベツやレタスなどでサラダ風に頂くことも可能なので、五葷以外の食材で考えてみましょう。
果物類
果物類も、精進料理で使用しても良い食材です。
日本に馴染み深い果物だと、イチゴ・柿・梨・みかんやオレンジ・バナナ・りんご・ぶどうなどが、食後のデザートとしてよく使用されます。
日本には四季があるため、季節によって頂く果物も異なり、仏様の恵みをより一層感謝できるのではないでしょうか。
その季節に味わえる果物を用意して、精進料理に彩りを添えてみましょう。
穀物類
穀類は、主に澱粉質のある食材のことで、米・麦・とうもろこしなどがこれにあたります。
穀類と聞くと食材としてはピンとこないかも知れませんが、実際に店頭で売られている食材としては次のとおりです。
- 米
- そうめん
- うどん
- そば
- 米粉
- 小麦粉
これらの例を見ると、主食としてそのまま頂いたり、汁物として精進料理で出されていることがわかります。
穀類の食材は、仏様へのお供物としても大切な食材なので、精進料理を自分で用意した時には仏壇にお供えしても良いでしょう。
海藻類
精進料理では、野菜を使った料理につい目が行きがちですが、海藻類も立派な食材です。
ワカメ・昆布・ノリといった馴染みがある食材はもちろんのこと、地域にもよりますがウミブドウといった海藻類も精進料理に活かせます。
特に、昆布は動物性の出汁が使えない精進料理にとって、深みのある出汁が取れる大切な食材です。
身近にある海藻類に目を向けて、精進料理に活かしてみましょう。
豆類
豆類も、精進料理には欠かせない食材のです。
豆そのものを炊いて頂くこともありますが、日本は昔から次のような豆の加工品が食材として根付いています。
- 豆腐
- お揚げ
- 納豆
- 味噌
- 醤油
- あんこ
豆腐やお揚げなどは、精進料理ではよく見かける食材です。
味噌や醤油も、精進料理の幅を広げるために利用されています。
日本の伝統的食材を上手に利用して、味わいのある精進料理に仕上げてみましょう。
代表的な精進料理
精進料理で使える食材や基本的なルールを押さえていても、いざ精進料理を用意しようとすると戸惑う人も多いものです。
そこで、ここでは、代表的な精進料理をご紹介しますので、悩んだ際の参考にしてみてください。
野菜の煮物
精進料理でよく目にするのは、その季節に手に入る野菜の煮物です。
昆布と干し椎茸で取った「精進出汁」で、じっくりとふくめるように炊き込んだ野菜の煮物は、それぞれの野菜の味を損なうことなく頂けます。
野菜の煮物を作るときは、素材となる野菜に合わせて煮る時間を変えたり、下茹でしてアクをとるのも大切な工程です。
それぞれの野菜が一番美味しい状態で頂けるよう、丁寧に料理をしてみましょう。
胡麻豆腐
胡麻豆腐は、関西地方を発祥とした郷土料理で、精進料理には欠かせない一品です。
皮をはずしたゴマを丁寧にすり潰し、葛粉を水で溶いたものと合わせて鍋に入れ、滑らかになるまで火にかけた後型に入れて冷やします。
ゴマを念入りにすり潰すことで滑らかな舌触りになるのですが、この作業は大変根気がいることから、調理工程そのものも修行と考えられる精進料理です。
初めての人には少し難しいかも知れませんが、調理をすることも色のありがたみがわかる良い機会なので、自分で作って食べてみるても良いでしょう。
がんもどき
がんもどきは、豆腐を潰したものに刻んだ野菜を混ぜ、油で揚げて仕上げた料理です。
「もどき」という言葉がついているとおり、元々は肉の代用品として考えられたものですが、現在では日常的にもよく見られる食材になりました。
油で揚げてあるため火は通っていますが、そのままで食べるよりも煮物の具材として使用することが一般的です。
他の野菜と一緒に煮ても美味しいですが、がんもどきだけをゆっくり煮ふくめて味わってみるても良いでしょう。
野菜の天ぷら
精進料理の中で、メインの料理として人気が高いのが野菜の天ぷらです。
ニンジンやゴボウ、椎茸といった馴染みのある食材から、春先に楽しめる山菜を揚げたものまで、四季折々の野菜で天ぷらを味わえます。
野菜の天ぷらは、素材に合わせて温度調節をしながら上げることがコツです。
根菜は低めの温度からじっくりと、すぐに火が通る野菜は短時間でサクッと揚げるのを意識してみてください。
けんちん汁
けんちん汁は、「建長寺(けんちょうじ)」という禅寺が発祥といわれている有名な汁物です。
昆布や椎茸の出汁で、多くの根菜を煮込んで作られるけんちん汁は、精進料理で出させる汁物として人気があります。
味噌仕立てでけんちん汁を作る地域もありますが、本来のけんちん汁は精進出汁がベースです。
根菜類だけではなく、葉物の野菜や山菜類なども取り入れて、味わい深いけんちん汁にしてみましょう。
精進料理はいつ食べる?
精進料理は、仏事での集まりで頂くのが一般的です。
しかし、近年では繰り上げ法要が行われることも多く、「実際にはいつ食べるの?」と迷う人も少なくありません。
では、精進料理はどのような時に食べるのが相応しいのか、精進料理を頂く際の具体例を紹介しましょう。
通夜振る舞いの時
お通夜の後に振る舞われる食事のことを「通夜振る舞い」と呼びます。
通夜振る舞いは、お通夜の儀式の後に開かれるお食事会で、遺族から振る舞われた食事を頂きながら故人を偲ぶのです。
このときに出される食事は、故人が亡くなってまだ忌明けをしていないため、すべて精進料理になります。
野菜を中心にしたメニューを用意して、精進料理でお通夜の参列者をもてなしましょう。
忌明け前に食事する時
故人の遺族にあたる人は、忌明けをするまで普段の生活を控え、供養をしながら静かに過ごします。
その生活の中で頂くのが、野菜が中心となる精進料理です。
忌明けをするまでの間は、故人が極楽浄土へ行けるよう遺族が供養を行うため、殺生や煩悩を刺激する食事を頂くと故人への供養が薄らいでしまいます。
現代では供養の方法や生活スタイルも変化しているため、火葬後の精進上げや初七日法要を持って普段の食事に戻すことが多いですが、本来の忌明けは四十九日法要です。
それぞれの事情によっても違いはありますが、できれば四十九日を迎えるまでの期間は、粗食を意識して生活してみましょう。
お盆の時
お盆は、先祖の霊が帰ってくる大切な仏事です。
帰ってきた先祖の霊にお供えするため、精進料理を仏壇や祭壇にお供えし、遺族も同じものを食べて先祖の霊を供養します。
特に初盆の場合は、親族なども呼んで初盆の法要を行い、その時に精進料理を振る舞うことも少なくありません。
お盆での食事内容は各家庭によっても違いがありますが、精進料理を意識した食事を用意しましょう。
法要の時
故人や先祖の霊を供養するための法要では、精進料理を頂いて冥福を祈ります。
特に、初七日や四十九日法要、一回忌や十三回忌といった大きな年忌法要では、席を設けて精進料理を振る舞い、故人を偲ぶこともあるのです。
ただし、地域によっては四十九日以降の法要の食事を精進料理にしないことも多く、一概には言えません。
法要でお食事を用意する時は、周囲の人と相談してどのような食事が良いか決めていきましょう。
お寺の行事の時
「お寺の行事」とは、お寺が主催する年間行事や通年行事のことです。
例えば、施餓鬼法要や開祖にまつわる行事などがお寺であった場合、食事は修行の一環になるので精進料理を振る舞うことがあります。
食事会の有無や内容については、各お寺によって違いがありますので、もし参加予定があり気になる場合は事前にお寺へ問い合わせてみてください。
精進料理でよくある疑問
精進料理の基本やルールなどを学んでいくと、細かな疑問が気になる人も多いのではないでしょうか。
そこで、ここでは精進料理でよくある疑問についてお答えしていきます。
疑問①:卵は使っても良い?
厳密な言い方をすると、卵は「いずれ生き物になるもの」なので、精進料理では使ってはならない食材です。
しかし、人によっては「卵はまだ生きてないから大丈夫」「無精卵であれば良い」など、さまざまな解釈をするケースもあります。
ですが、もし卵を使った場合、自分は良いと思っても食べる側に拒否感があると、せっかくの精進料理も頂けません。
できれば使わないようにして料理をし、使った場合は事前に振る舞う人に教えるなどの対応をした方が良いでしょう。
疑問②:乳製品は食べても良い?
乳製品に関しても、判断は人それぞれです。
「牛乳は命を搾取しているわけではない」という人もいますし、「動物から搾取しているのでダメ」と判断する人もいます。
最近では、牛乳やバターなどを使って洋風に仕上げた精進料理も増えてきました。
自分で判断できない場合は、事前に周囲の人に確認・相談をして、あらかじめ原材料から決めて行った方が良いでしょう。
疑問③:出汁程度なら肉・魚・甲殻類が由来のものでも良い?
精進料理では、たとえ出汁であっても肉・魚・甲殻類を口にしてはなりません。
鶏がらスープやかつお出汁など、動物性の出汁はたくさん種類がありますが、必ず昆布や干し椎茸から出汁を取りましょう。
疑問④:ドレッシングやマヨネーズで野菜を和えて良い?
マヨネーズには卵が使われているため、精進料理で卵を使うことに戸惑いがある場合は避けたほうが良いでしょう。
ドレッシングに関しては、現在さまざまな種類のドレッシングがありますので、まずは原材料を確認してみてください。
例えば、原材料がすべて植物由来のものであれば、ドレッシングを使っても問題はありません。
市販のドレッシングが難しい時は、オリーブオイルとポン酢を混ぜて手作りすることもできます。
原材料をしっかりと確かめ、できる範囲内で工夫してみましょう。
疑問⑤:精進料理のルールを守れば洋風でも良い?
精進料理は日本の伝統食ではありますが、必ずしも和風の味付けにする必要はありません。
諸外国では、「ヴィーガン」と呼ばれる厳しい菜食主義の人たちが精進料理の基本ルールを学んで、それぞれ工夫を凝らした自国の料理にアレンジしています。
トマト缶と精進出汁を合わせたスープや、おからとじゃがいもで作ったコロッケなど、精進料理のルールを守って洋風にアレンジしてみましょう。
精進料理を用意する際の注意点
精進料理を用意する際には、気をつけなければならないことがあります。
具体的にどのようなことに注意するべきなのか、精進料理を用意する際の注意点を紹介しましょう。
- 調味料の原材料まで良く確認する
- その場に相応しい精進料理を用意する
- 難しい場合は無理をせずお店に相談する
注意点①:調味料の原材料まで良く確認する
精進料理を作る際は、調味料に至るまで使ってはいならない食材に気をつけなければなりません。
市販の調味料では、原材料を見ると意外に「五葷」や香辛料などが使われていることがあります。
せっかくの精進料理ですから、口に入るものは調味料に至るまで原材料を良く確認してください。
注意点②:その場に相応しい精進料理を用意する
精進料理は、法要の席で頂く機会も多いです。
出席される年齢も幅広く、昔ながらの精進料理を好む人もいらっしゃいます。
このような席で、もし洋風な精進料理を多く用意してしまうと、なかなか箸が進まないだけではなく、苦言を述べられてしまうかもしれません。
精進料理は、用意するシチュエーションは参列者の年齢も考慮して、その場に相応しい精進料理を用意しましょう。
注意点③:難しい場合は無理をせずお店に相談する
精進料理にはやってはならない基本ルールがあるため、自分で用意するのが難しい場合もあります。
そのような場合には無理をせず、精進料理に対応してくれるお店に相談しましょう。
精進料理を頼む方法か次のようになっていますので、相談する際の参考にしてみてください。
懐石料理店で席を予約する
法要などで精進料理の席を設ける時、ある程度人数が決まっているのであれば、解析料理店に席を予約してみましょう。
懐石料理店では、出席者の年齢層や好みに合わせた精進料理を用意してもらえます。
予約をする前には日にちと人数を確認し、精進料理の内容まで含めて相談してみましょう。
仕出し弁当を頼む
参加人数が少ない場合は、精進料理の仕出し弁当を頼んで自宅で会食する方法もあります。
仕出し弁当の場合は、食べきれなくてもそれぞれお持ち帰りができますので、状況と人数によって判断してみましょう。
オードブルを頼む
参加者がはっきりせず個別の席を設けにくい際に便利なのが、精進料理をオードブルで頼む方法です。
オードブルなら、メインとなる精進料理を美しく盛ってもらえますので、テーブルに出しても席が整うことでしょう。
メインとなるオードブルの他には、そうめんや汁物など自宅でできる簡単な精進料理を用意してください。
まとめ
精進料理は食を通じた修行の一つなので、仏教にのっとった決まりを守って用意しなければなりません。
精進料理の基本ルールをしっかりと守り、食材や原材料を確かめながら精進料理を用意しましょう。