ご自宅に仏壇がある方であれば、その中にお札や木製の板が祀られていることをご存知だと思いますが、そのお札や木製の板が「位牌(いはい)」です。
この位牌は宗教上非常に重要な意味を持ちながら、その必要性や役割を理解している方は少なく、そのため「位牌はいらないのではないか?」と疑問を持つ方も少なくありません。
そこで、ここでは位牌の必要性や役割などを詳しく説明しながら、併せて「種類」「購入時の注意点」「処分方法」についても解説します。
位牌とは

位牌とは、仏教徒のほとんどの宗派において人の魂が宿る依代(よりしろ)と考えられている木製の板で、自宅の仏壇や寺院の位牌堂に安置する仏具です。
この位牌は故人が帰ってくる場所と考えられ、遺された家族が故人に語りかけ感謝の気持ちを伝えるためには、欠かすことができない存在と考えられています。
そのため、仏教徒はこの位牌を「故人そのもの」と捉え、大切に守り抜くことが先祖供養につながると考えているのです。
位牌に刻字されている文字
位牌には故人の戒名が記されていますが、それ以外にも「俗名」「亡くなった年月日」「亡くなった年齢」が刻印されています。
それぞれの意味や刻印の仕方は次のとおりです。
戒名
戒名とは仏様の弟子となった証として僧侶から頂く名前で、それぞれの宗派によって使用する漢字や付け方のルールが異なります。
また、故人の社会的な地位や生前の寺院への貢献度などによっても、戒名の位(くらい)が異なるという特徴があります。
俗名
故人が生前に使用していた名前で、位牌の裏側に刻印するのがルールです。
亡くなった年月日
故人の没年月日を、昭和や平成などの元号を用いて漢数字で刻印します。
亡くなった年齢
故人の亡くなった年齢を、昭和や平成などの元号を用いて漢数字で刻印します。
位牌を祀る場所
位牌を祀る場所は、仏壇中央にある御本尊から一段下げた場所に祀るのがルールです。
ただし、仏壇のサイズの関係上御本尊の下に祀るスペースがない場合は、御本尊の上座となる右側に並べて安置しても構いません。
位牌の費用相場
位牌の費用相場は、加工方法や原料である木材の種類によっても異なりますが、概ね5万円以内で購入することができます。
安価な位牌であれば1万円ほどで購入することも可能ですが、一般的な位牌であれば2万円から3万円程が費用相場です。
なお、位牌は購入費用とは別に梵字(ぼんじ)や戒名などの刻印費用が必要な場合があります。
購入の際には、この費用が本体価格に含まれるのか確認しておきましょう。
位牌の必要性とは

亡くなった方の供養に最も大切なことは、その死を悼み死後の安らかな安寧を祈る気持ちや想いといわれます。
そのため、このような考えの下「故人を想う気持ちがあるのなら位牌は不要では?」と疑問を持つ方がいるのが事実です。
そこで、ここでは位牌の必要性について宗教教義を交えながら解説します。
基本的には仏教徒には必要
ほとんどの仏教宗派の教義では、亡くなった方の魂は遺族の呼びかけに応じる形で位牌に戻り、その場所に留まってくれると考えられています。
そのため、位牌がなければ故人の魂は遺族の呼びかけに答えるができずに自宅に戻ることができません。
このような宗教上の教義から、仏教徒のほとんどの宗派では位牌を準備するケースがほとんどです。
仏壇の中に位牌があることで、日常の先祖供養の対象は位牌の中に居る故人の魂となります。
手を合わせる対象が明らかになることで、より心をこめて日々の感謝をご先祖様に伝えることができるでしょう。
浄土真宗では不要
浄土真宗の教義では、「信心をもって亡くなれば、すべての方は阿弥陀如来によって救われる」と説かれています。
これは、「亡くなった方はその時点で成仏して仏様に生まれ変わる」という教えです。
このような教義から、浄土真宗では故人はその死後直ちに成仏するため、遺族はその魂を供養する必要がなく位牌も不要と考えられています。
位牌の代わりに「法名軸」と「過去帳」を使用する
このように、浄土真宗では他の宗派と教義が異なるため位牌は不要ですが、その代わりに次の「法名軸」と「過去帳」と呼ばれる2つの仏具を仏壇に飾ります。
- 法名軸:亡くなった方の法名(他宗派の戒名にあたる名前)を記載して、仏壇の内側にかけて位牌の代わりに用いる浄土真宗特有の仏具
- 過去帳:複数の「法名」「没年月日」「名前」「年齢」をまとめて記載して、ご先祖様の命日を確認するために使用する帳面
無宗教者には不要
特定の形式やしきたりに囚われない葬儀を行う方や、宗教に対して信仰心がない方は無宗教者と呼ばれますが、このような方にも位牌は原則として不要です。
ただし、このような無宗教者の葬儀やその後の供養は、決まりごとがないだけに、味気ないと感じる方が多いようです。
そのため、せめて毎日手を合わせる対象が欲しいと位牌を購入する方は少なくありません。
無宗教では戒名がないため位牌には本名が刻印されますが、無宗教だからといって位牌を作ることができないわけではないのです。
位牌を購入する時期・確認事項

このように、仏教徒であればほとんどの宗派に必要な位牌ですが、購入に関しては適切な時期や確認すべき項目を把握しておく必要があるでしょう。
ここでは、位牌購入の最適な時期とその際の確認事項を紹介します。
最適な購入時期
位牌は四十九日法要までに準備しなければなりませんが、「戒名」「俗名」「没年月日」などさまざまな印字が必要なため、2週間程度の製作期間が必要です。
四十九日法要の直前に製作を依頼しても完成は法要後となってしまうため、これでは購入時期としては遅すぎます。
予定よりも完成がずれ込むことも考慮して、初七日法要後には製作を依頼しておいた方が無難です。
購入時の確認事項
位牌を購入する機会はほとんどの方が一生に一度のため、どのような位牌を購入すれば良いのかわからないものです。
そのため、購入をする前には次の点についての確認を行っておきましょう。
仏壇の有無
位牌は仏壇に安置することで初めて先祖の魂が宿ることができると考えられているため、原則的に位牌単体で祀ることはありません。
仏壇がない場合は併せて仏壇を購入します。
先祖の位牌の有無
直近で亡くなった方の位牌を祀る際には、それ以前にあったご先祖様の位牌と同じ形のものを購入するのがマナーです。
また、この際の位牌はご先祖様の位牌よりも大きくてはいけません。
位牌の形状は統一し、後から祀る位牌は小さいサイズを求めましょう。
先祖の位牌がある場合は寸法を確認
先ほどの解説のとおり、以前からあった位牌よりも大きな位牌を祀るのはマナー違反です。
そのため、位牌を購入する前には現在ある位牌の寸法をあらかじめ測っておきます。
サイズを測る箇所は、位牌の「高さ」「横幅」「奥行」以外にも札板から位牌の最高部までの高さも測ります。
なお、位牌の大きさは「4寸」などの単位で記載されていることがありますが、これは札板の寸法です。
正確なサイズを把握するためにも、位牌の最高部までの高さと札板の大きさの2つの寸法を把握しておきましょう。
位牌の文字を控えておく
位牌は「戒名」「俗名」「命日」「年齢」が印字されて完成します。
これらの情報は口頭での伝達はできないため、予め紙に記載して仏具店に提出できるよう準備しておきましょう。
位牌購入時の注意点

実際に位牌を購入する段階では、次に解説するポイントについても気をつけなければなりません。
ここでは、位牌購入時の注意点を解説します。
- 仏壇の寸法に対して適切な大きさか
- 先祖の位牌よりも大きくはないか
- 原産国はどこか
仏壇の寸法に対して適切な大きさか
購入する位牌の寸法は、仏壇の大きさに対して適切な大きさでなければなりません。
大きな仏壇に対してあまりにも小さな位牌はバランスが悪く、反対に小さな仏壇に対して大きな位牌は、仏壇の前で手を合わせた時に違和感を覚えてしまいます。
購入する位牌の寸法は、仏壇の大きさを基準に選びましょう。
先祖の位牌よりも大きくはないか
先ほども解説したとおり、これまであった位牌よりも大きいサイズの位牌を新たに祀ることはマナー違反です。
位牌購入を準備する際には、これまであった位牌の寸法を測っていますが、実際に購入する段階で今一度寸法を測り間違いがないか確かめましょう。
原産国はどこか
位牌はさまざまな種類がありますが、同じ大きさで同じ形であっても素材の原産国が異なる場合があります。
安価な製品は中国産であることが多く、一見するとその違いはわかりませんが、このような製品は時間の経過とともに素材の劣化が進みます。
具体的には次のような症状が現れる場合がありますので、購入する際には原産国の確認が必要です。
- 位牌本体部分の反り返りや歪み
- 位牌表面の漆の浮き上がり
- 金箔部分の変色 など
位牌の種類

ここまで解説してきたように、浄土真宗を除く仏教徒にとっての位牌は、単なる仏具としての意味合いを超えて信仰の対象と考えられています。
ただし、位牌にはいくつかの種類があり、すべての位牌をこのように扱うことはありません。
ここでは位牌の種類を解説しながら、それぞれの特長や扱いについて解説します。
- 白木位牌
- 本位牌
- 寺位牌
白木位牌
白木位牌とは、葬儀を行う際に使用される位牌で、別名「仮位牌」とも呼ばれます。
仮位牌の名のとおり、この位牌を使用する期限は四十九日法要までとなっているため、位牌本体に塗りはなく真っ白な木の表面と木目があらわになっています。
本位牌
ここまで位牌について解説してきましたが、そのすべてはこの「本位牌」についての事柄です。
この本位牌は四十九日法要から末永く仏壇に安置される位牌で、短期間で使用期限が訪れる白木位牌とは根本的にその扱いが異なります。
白木位牌から本位牌に替える理由
浄土真宗以外の仏教宗派では、故人は四十九日まで魂となってこの世をさまよいますが、それ以降は成仏しあの世に向かうと考えられています。
このように、成仏した魂を祀るために使用するのが本位牌です。
このような理由から、位牌は故人の死後の経過時間によって白木位牌から本位牌に替えられます。
寺位牌
何らかの事情で自宅に位牌を安置できない方や永代供養を望む方は、「寺位牌」と呼ばれる位牌を寺院に安置することになります。
中には本位牌を寺位牌として使用できる場合もありますが、本位牌と寺位牌は基本的には使い分けられることが一般的です。
なお、本位牌を持ちこみ可能な場合でも寸法によっては断られることもあるため、大きさについての確認は事前に行っておきましょう。
位牌の形状別種類

位牌はその形状によってもいくつかの種類があり、それぞれ用途が異なります。
位牌の形状別の種類は次のとおりです。
- 板位牌
- 幅広位牌
- 過去帳位牌
- 繰り出し位牌
板位牌
最も一般的な位牌の形状が、この板位牌です。
位牌の前面には戒名、裏面には「俗名」「没年月日」「年齢」を印字することが一般的ですが、この内容はお住まいの地域によって異なる場合があります。
幅広位牌
夫婦が一つの位牌におさまるために使用する幅広位牌は、2人分の戒名などを印字するため板位牌よりも幅が広いことが特徴です。
寺院で使用する幅広位牌はさらに多くの戒名を印字するため、幅の長さが30センチ以上になることもあります。
過去帳位牌
過去帳位牌は、位牌の中に過去帳を納めることができる形状をしています。
この過去帳とは亡くなった方の戒名や没年月日などを記載しておく帳面です。
繰り出し位牌
位牌の正面に扉がついていて、その中に複数の木版を差し込むことができる繰り出し位牌は、一つの位牌に対して10人ほどの札板をおさめることが可能です。
位牌の処分方法

何らかの事情で位牌を処分しなければならない場合であっても、ご先祖様の依代として安置してきた位牌を、何の供養もせずに廃棄することは仏教教義に反する行為です。
ここでは、位牌を処分する際の正しい処分方法を解説します。
白木位牌の処分方法
白木位牌は四十九日法要後に本位牌に置き換えられるため、その後は不要となり処分しなければなりません。
この際の処分方法として挙げられるのは、葬儀や法要を依頼した僧侶へ「閉眼供養」と「お焚き上げ」の供養を依頼することです。
閉眼供養を行ってご先祖様の魂が抜けた位牌は、僧侶の読経の下に行うお焚き上げで天に還ると考えられています。
本位牌の処分方法
本位牌も白木位牌と同様に閉眼供養とお焚き上げで処分します。
ただし、本位牌はお焚き上げのように焼却する方法以外にも、寺院へ預けて供養をすることも可能です。
このような方法は、自宅で位牌の管理が難しい方や位牌の継承者がいない方が行うことが一般的です。
まとめ
位牌はほとんどの仏教徒にとっては亡くなった方そのものであり、仏壇の装飾品や一般的な仏具を超えた存在です。
購入する際にはそのことを念頭に納得できる品を選び、仏壇に祀ってからは丁寧な扱いと日常的な供養を心がけましょう。