親が亡くなると、さまざまな手続きが発生します。
中でも、大変な思いをされる人の多い手続きの一つが「実家の名義変更」です。
今回は、実家の名義変更を自分で行う方法や必要書類等について解説します。
目次
生前贈与で実家の名義変更はできる?

親が亡くなってから実家の名義変更をするには、下記のとおりさまざまな書類が必要となり、非常に手間がかかります。
では、そのような手続きの負担を軽減するため、親の生前に実家の贈与を受けて名義を変えておくことは可能なのでしょうか?
実家の生前贈与には贈与税がかかる
結論をお伝えすると、生前贈与による実家の名義変更は可能です。
しかし、手続き面での負担を軽減する目的ということであれば、あまりおすすめはできません。
なぜなら、実家の名義を生前に変えると、多額の贈与税がかかる可能性があるためです。
実家を相続でもらう場合にかかる税金は「相続税」です。
とはいえ、相続税は遺産の合計が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」まではかかりません。
例えば、妻と2名の子の計3名が法定相続人なのであれば、トータルの遺産額が4,800万円(=3,000万円+600万円×3人)までは相続税はかからないということです。
また、これを超える額の遺産がある場合であっても、この4,800万円を引いた残りに対して課税されることになります。
一方で、生前贈与の場合にかかる税金は「贈与税」です。
相続税とは異なり、贈与税の非課税枠は年110万円しかありません。
これを引いた残りに贈与税が課税されます。
例えば、土地と建物を合わせて2,000万円相当の実家を父から生前贈与でもらった場合、なんと585.5万円もの贈与税がかかるのです。
そのため、安易に自宅を生前贈与でもらうことはおすすめできません。
実家の生前贈与に「相続時精算課税制度」の活用はおすすめしない
贈与税には「相続時精算課税制度」という特例制度があります。
この制度を使えば、累計2,500万円までの生前贈与を、無税で行うことが可能です。
「この制度を使って実家の生前贈与を受ければ良いのではないか」と思われるかもしれませんが、実はあまりおすすめできません。
なぜなら、相続時精算課税制度を活用するには、自宅の評価をきちんと行い、一定の書類とともに税務署へ申告する必要があり、手間の軽減にはつながらないためです。
また、いったん相続時精算課税制度の適用を選択すると、以後贈与を受けた場合、たとえ少額でも毎年税務署へ申告をしなければならず、手間はむしろ増えてしまいます。
さらに、相続時精算課税制度は、相続税の節税にさえならない点にも注意しておきましょう。
なぜなら、相続時精算課税を使って行った生前贈与は、相続が起きた際にすべて持ち戻されて、相続税の対象となるためです。
それどころか、何もしなかった場合と比べて、相続税は高くなってしまう可能性さえあります。
なぜなら、実家の建物は年々評価が下がっていくのが普通ですが、相続税の対象となる額は、相続が起きた時点での額ではなく、贈与時点での額となってしまうからです。
このような理由からも、たとえ相続時精算課税を使った場合でも、実家の生前贈与を受けることはおすすめできません。
なお、他の相続人と争いになりそうなどの理由から確実に自宅をもらいたいなどの事情があるのであれば、遺言書を作成してもらっておくと良いでしょう。
実家の名義変更の手続きの手順

実家は、生前贈与ではなく相続で受け取った方が良いことはおわかりいただけたのではないでしょうか?
では、相続に際して実家を名義変更するには、どのような手順が必要となるのか、その流れを解説していきます。
- 誰が相続するかを決める
- 必要書類を収集する
- 法務局で登記をする
誰が相続するかを決める
相続が起きた後で実家の名義を変えるには、まず、誰が実家を相続するのか決める必要があります。
実家を相続する人を決める方法には、主に次の2つがあります。
- 遺言書:被相続人が遺した遺言書で実家の不動産を相続する人が決めてあれば、原則としてその人が実家を相続します。
- 遺産分割協議書:遺言書がない場合には、相続人全員で話し合いをして、誰が実家の不動産を相続するのかを決定します。
必要書類を収集する
実家を相続する人が決まったら、実家の名義変更登記に必要となる書類の収集と作成を行います。
具体的な必要書類については後述します。
法務局で登記をする
必要書類が揃ったら、実家の不動産のある場所を管轄する法務局へ登記申請します。
登記は郵送でも申請できますが、自分で申請をする場合は直接窓口へ出向いたほうが良いでしょう。
なぜなら、窓口申請であれば、不備が見つかった場合、その場で軽微な修正ができるからです。
なお、申請前に相談をしたり確認をしてもらったりしたいのであれば、法務局へ事前に相談予約をしたうえで出向くことをおすすめします。
実家の名義変更をするための必要書類

相続に際して実家の名義変更をするには、下記の書類が必要です。
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人の住民票の除票又は戸籍の附票
- 被相続人の出生までさかのぼる戸籍謄本等
- 相続人全員の現在戸籍の謄本
- 実家を相続する相続人の住民票
- 不動産の評価証明書又は評価通知書
- 登記申請書
なお、これは遺産分割協議書で名義変更をする場合の一例で、遺言書で名義変更をする場合には、遺産分割協議書などいくつかの書類が不要となります。
また、状況によってこれら以外の書類が必要となるケースもありますので、実際に登記を申請する際には、事前に法務局へ出向いて確認してください。
遺産分割協議書
遺産分割協議書とは、実家の土地建物などの遺産を誰が相続するのかについて相続人全員で話し合い、その結果をまとめた書類です。
相続人全員が話し合いの結果に納得していることの証明として、全員が実印で捺印をする必要があります。
登記をしたい土地や建物につき、誰が相続するのかが明確にわかるように作成しましょう。
相続人全員の印鑑証明書
遺産分割協議書に押した印が実印であることの証明として添付します。
他者が取得をするには、委任状のほか印鑑カードを預かる必要もあるため、それぞれ本人が市町村役場などで取得することが一般的です。
最近では、マイナンバーカードを持っていることを条件に、コンビニエンスストアなどで取得ができる市町村もあります。
手数料は市町村により異なりますが、1通200円から400円ほどのことが多いです。
被相続人の住民票の除票又は戸籍の附票
被相続人の最後の住所を証明する書類です。
住民票の除票であれば被相続人の最後の住所地の市町村役場で、戸籍の附票であれば被相続人の最後の本籍地の市町村役場で、それぞれ取得します。
手数料は市町村により異なりますが、1通200円から400円ほどです。
被相続人の出生までさかのぼる戸籍謄本等
被相続人の相続人を確定するために、被相続人の死亡から出生までの連続した戸籍謄本や除籍謄本、原戸籍謄本も必要です。
戸籍謄本は今後も変動が生じる可能性がある一方で、除籍謄本や原戸籍謄本はすでに閉じられているため、二度と内容の変動が起きることはありません。
それぞれ、その当時に被相続人が本籍を置いていた市町村役場で取得します。
なお、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合には、これに加えて被相続人の両親それぞれの死亡から出生までさかのぼる戸籍謄本等も必要です。
手数料は全国一律で、戸籍謄本であれば1通450円、除籍謄本や原戸籍謄本であれば1通750円となっています。
相続人全員の現在戸籍の謄本
相続人が生存していることの証明として必要です。
それぞれ、その相続人の本籍地の市町村役場で取得します。
手数料は全国一律で、1通450円です。
実家を相続する相続人の住民票
新たに実家の名義人となる人の住所と正しく登記するために必要です。
その相続人の住所地の市町村役場で取得します。
手数料は市町村により異なりますが、1通200円から400円ほどです。
不動産の評価証明書又は評価通知書
登記を申請する際には、後述のとおり「登録免許税」という税金を納める必要があります。
この税金の計算のため、評価証明書または評価通知書が必要です。
いずれも、対象となる不動産の所在する市町村役場で取得します。
手数料は、評価通知書であれば無料である一方、評価証明書は300円前後です。
登記申請書
登記申請を行う際に最も重要となる書類が登記申請書です。
銀行の相続手続き書類などのように穴埋めをしていくものではないため、自分で一から作成する必要があります。
法務局ホームーページに記載例がありますので、こちらを参考にして作成したうえで、申請前に法務局の登記相談で確認をしてもらうと良いでしょう。
実家の名義変更でかかる税金・費用

実家の名義変更をするには、下記の費用が掛かります。
- 登録免許税
- 必要書類の取得費用
- 司法書士報酬
登録免許税
実家の名義変更に係る費用として大きなものに「登録免許税」があります。
これは税金の一種であり、自分で登記をしても司法書士へ依頼をしても同様にかかる費用です。
相続登記の際の登録免許税は、登記する不動産の固定資産評価額に1,000分の4を乗じた額と定められています。
例えば、評価額が2,000万円の不動産であれば、8万円(=2,000万円×4/1,000)の登録免許税が必要だということです。
評価の高い不動産の場合には高額になることもありますので、事前に確認しておきましょう。
必要書類の取得費用
相続登記に際しては、上記のとおりいくつかの書類が必要です。
これらの書類の取得費用は、相続関係の複雑さや相続人の人数、被相続人の転籍回数などによって異なります。
目安としては、子が相続人となる場合には1万円前後、兄弟姉妹が相続人となる場合には2~3万円ほどとなることが多いでしょう。
司法書士報酬
相続登記を司法書士へ依頼した場合には、司法書士報酬も掛かります。
司法書士報酬は事務所によって異なるため一概には言えないものの、実家の土地建物のみの相続登記を依頼した場合には、おおむね10万円前後である場合が多いでしょう。
父が死亡した場合実家の名義は母と子どちらに変更すべき?

では、例えば実家の父が亡くなった場合、その実家の名義は、母と子のどちらにすれば良いのでしょうか?
これにはそれぞれ一長一短があります。
ここでは、それぞれのメリットを紹介しますので、検討する際の参考としてください。
実家を母の名義にするメリット
まず、実家を母名義にするメリットは、次のとおりです。
- 母が安心して実家で暮らすことができる
- 一次相続での相続税が安く済む可能性がある
母が安心して実家で暮らすことができる
実家を母名義にすることで、母にとっては安心して老後を過ごせるメリットがあります。
とはいえ、子の名義にしたとしても、母と子の関係性が良ければ子が母を追い出すことは考えにくいため、問題ないでしょう。
しかし、父の相続で実家を子の名義にした後で、子が不慮の事故などで母よりも先に亡くなってしまった場合を考えると、リスクが残ります。
なぜなら、子が亡くなった場合には子の配偶者や子が相続人となり、原則として母は相続人とはならないためです。
亡くなった子の配偶者と母との折り合いが良くない場合、母は家から追い出されてしまうかもしれません。
一次相続での相続税が安く済む可能性がある
実家を母名義にするもう一つのメリットは、父の相続で相続税が安くなる可能性がある点です。
相続税には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった特例が多く存在します。
これらの特例を最大限活用するには、実家は母が相続したほうが良いと言えます。
実家を子の名義にするメリット
では実家を子の名義にするメリットには、どのようなものがあるのでしょうか?
- 相続登記が一度で済む
- 母の相続の際に実家が遺産分割協議の対象とならない
- 二次相続で税金が安くなる可能性がある
- 母が認知症になっても関係がない
相続登記が一度で済む
実家を子の名義にするメリットの一つに、相続登記が一度で済むことが挙げられます。
仮に実家を母の名義にした場合、その後母も亡くなった場合、再度母から子への相続登記をしなければなりません。
しかし、父の相続で最初から実家を子の名義にしておくことで、相続登記が一度で済みます。
当然、前述した登録免許税の支払いも一度で済むわけです。
母の相続の際に実家が遺産分割協議の対象とならない
実家を子の名義にすることで、母の相続の際には実家が遺産分割協議の対象とならない点もメリットです。
特に、子が複数いて、子同士の関係性があまり良くない場合には、このメリットが大きいといえるでしょう。
一般的に、母も亡くなり子だけになったときと比べて、母が存命のときのほうが、母が仲裁するなどして遺産分割の話し合いがまとまりやすい傾向にあるためです。
二次相続で税金が安くなる可能性がある
実家を子の名義にすることで、母が亡くなった際の二次相続で相続税が安くなる可能性がある点もメリットの一つといえるでしょう。
母の相続財産の中に、実家の土地建物がないためです。
一方、父の相続で母が実家を相続した場合には、その時点では前述のとおり相続税が安くなる可能性が高いものの、二次相続の際には母の財産が膨らむため、結果として相続税が高くなる可能性があります。
母が認知症になっても関係がない
母が実家を相続した場合には、その後母が認知症になってしまうと、実家を売却したり貸したりするという選択肢は取りづらくなります。
一方で、最初から実家を子が相続していれば、母が認知症となっても関係なく、実家の売却や賃貸が可能です。
ここで得た収入を原資として、母を施設に入れたり入院費をまかなったりすることができるわけです。
この点も、実家の名義を子とするメリットといえるでしょう。
実家の名義変更に期限はある?

相続が起きた後の実家の名義変更には、期限はあるのでしょうか?
ここでは、実家の名義変更の期限について、改正も踏まえて解説します。
実家の名義変更に期限はなかった
令和3年現在では、実家の名義変更に特に期限はありません。
加えて、単に住み続けるだけであれば、相続登記をしなくてもすぐに問題が起きる可能性は高くありませんでした。
そのため、相続が起きてから長年の間放置された土地や建物が社会問題となっているのです。
名義変更をしなければできないこと
とはいえ、相続登記をしないままでは、できないことも多数あります。
例えば、次のようなことをする場合には、相続登記が完了していなければなりません。
- 実家の不動産を売却する
- 実家の不動産を賃貸する
- 実家の不動産を担保にしてお金を借りる
そのため、いざこのようなことをしようとした際、相続登記がされておらず先代のままとなっていると、その時点で改めて相続人を探し、全員の合意を取り付ける必要があります。
相続が起きてから時間が経っていると、相続人が亡くなっていたり、関係性が変わってしまっていたりして、大変な想いをするケースが少なくありません。
そのため、法律上は期限がなかったとしても、速やかに相続登記をしておく必要があります。
実家の名義変更に期限ができる
相続登記がされないまま放置されている不動産が増加していることを受け、令和3年に民法や不動産登記法が改正されました。
これにより、改正法の施行後は、3年以内に相続登記を行うことが義務化されたのです。
改正法は2024年度までに施行される予定で、以後は期限内に登記を行わない場合、10万円以下の過料の対象となります。
元々速やかに行っておくべき相続登記ですが、以後はより期限を意識して手続きを行うようにしましょう。
まとめ
実家の名義変更は速やかに行っておくべきである一方で、これには多くの書類が必要となるほか、慣れない登記申請書の作成も必要で、自分で行うのは容易なことではありません。
かといって、できるだけ費用をかけたくないという方も、少なくないのではないでしょうか?そのような際にぜひご利用いただきたいのが、そうぞくドットコムのサービスです。
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