相続税の基礎控除とは、相続税の課税対象となる財産の合計額から控除してもらえる金額のことを指します。つまり、この基礎控除額が大きければ大きいほど、相続税が安くなります。
また、相続税の課税対象となる財産の合計額が相続税の基礎控除以下であれば、相続税は課税されません。こういったことから、相続税を計算するうえで、基礎控除が非常に重要となることがおわかり頂けるのではないでしょうか?
この記事では、相続税の基礎控除の考え方や計算方法などについて詳しく解説します。
目次
相続税の基礎控除の考え方
まずは、相続税の基礎控除の考え方と、その位置づけを知っておきましょう。相続税の計算は、次のようになされます。
少し複雑ですが、大枠のイメージをつかんでみてください。
- 相続税の対象となる、課税価格の合計額を算定する。
- 相続税の基礎控除額を計算する。
- 1の課税価格の合計額から、2の相続税で計算した基礎控除額を控除する。
- 3で計算した金額を、各法定相続人が民法に定める法定相続分に従って取得したものとして、各法定相続人の取得金額を計算する。
- 4で計算した仮の取得金額に相続税の税率を乗じて、各相続人の相続税を計算する。
- 5で計算した各相続人の相続税を合計する。
- 6で計算した相続税の合計を、実際に財産を取得した割合で按分する。
- 各人につき、配偶者の税額軽減や未成年者控除などを計算して、各人が支払うべき相続税を算定する。
相続税の基礎控除額は、この中の「②」の段階で登場するということを知っておきましょう。
相続税がかかるかどうかは基礎控除との比較で決まる
相続税の基礎控除額が上記の流れの「②」の段階で登場することから、どのようなことが言えるのでしょうか?それは、「①」の課税価格の合計額よりも相続税の基礎控除額が多いのであれば、相続税はかからないということです。
一方で、課税価格の合計額よりも相続税の基礎控除額が少ないのであれば、相続税の申告が必要です。なお、課税価格の合計額とは、亡くなった人が亡くなったときに持っていた財産総額に、一定の贈与を足し戻したものだとイメージしてください。
仮に、課税価格の合計額が相続税の基礎控除額よりも少ないのであれば、相続税の申告自体も必要ありません。亡くなった人の持っていた財産と相続税の基礎控除額とを比較することで、相続税の申告が必要かどうか判断できるということなのです。
この点でも、相続税の基礎控除額について正しく知っておくことは非常に重要と言えます。
相続税の基礎控除額はいくら?
相続税の基礎控除額は、次の計算式で求めます。
- 基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
相続税の基礎控除額は、法定相続人の数によって異なります。法定相続人の数ごとの基礎控除額の計算結果は次のとおりです。
- 法定相続人が1名の場合:3,600万円
- 法定相続人が2名の場合:4,200万円
- 法定相続人が3名の場合:4,800万円
- 法定相続人が4名の場合:5,400万円
- 法定相続人が5名の場合:6,000万円
- 法定相続人が6名の場合:6,600万円
- 法定相続人が8名の場合:7,200万円
なお、この相続税の基礎控除額は、平成27年1月1日以後に開始した相続から改正されています。改正前の基礎控除額は、「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」で計算することとされていました。ですから、たとえば法定相続人が2名の場合の基礎控除額は7,000万円、法定相続人が3名の場合の基礎控除額は8,000万円と、現行のものと比べて大きな金額となっていたのです。
相続税の基礎控除が減るということは、相続税が増えることにつながります。この基礎控除額の改正により、相続税の額が増えるだけでなく、もともと相続税の申告が不要だった人の中にも、相続税がかかる可能性が高くなりました。
以前の感覚で「うちにはそこまでの財産はないから、相続税は関係ない」と思い込んでいても、改正後の基礎控除額を当てはめてみたところ相続税の対象となってしまうというケースも少なくありません。一度きちんと試算をしてみたほうが良いでしょう。
相続税の基礎控除と特例
相続税には、相続税が低くなるさまざまな特例や制度があります。中でも、一定の要件をもとに自宅に敷地などを最大8割減で評価ができる「小規模宅地等の特例」や、配偶者の相続税を大きく抑えられる「配偶者の税額軽減」などは軽減の効果も大きく、代表的なものです。
さて、課税価格の合計額が相続税の基礎控除額よりも少ないのであれば、相続税の申告自体が不要であることは先ほどお伝えしました。
しかし、相続税の申告が必要かどうかを確認する際に相続税の基礎控除額と比較する「課税価格の合計額」は、こういった特例を使用しない状態で判断するということを知っておいてください。なぜなら、小規模宅地等の特例などは、相続税の申告をしないことには適用が受けられないためです。
小規模宅地等の特例をつかって計算をした「課税価格の合計額」が相続税の基礎控除以下となる場合であっても、こういった特例を使わずに計算をした「課税価格の合計額」が相続税の基礎控除を超える場合には、申告自体は行う必要があります。
ただし、この場合には、申告をした結果として相続税額はゼロとなる可能性が高いでしょう。
相続税の基礎控除と法定相続人の関係
先ほどお伝えしたように、相続税の基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算します。ですから、相続税の基礎控除額を正しく算定するためには、法定相続人について正しく知っておく必要があります。
まず、法定相続人とは、民法で定められた相続人のことです。たとえば、遺言書があったり、遺産分割協議の結果として財産を何ももらわない相続人がいたりしたとしても、法定相続人は変動しません。
つまり、法定相続人の数は、実際に誰が財産をもらったかによって変動しないということです。まずは、この前提を知っておいてください。
そのうえで、法定相続人についての基本的な考え方も知っておきましょう。法定相続人の基本的な考え方として、まず被相続人に配偶者がいれば、配偶者は常に相続人となります。
そして、配偶者とは別枠として、第一順位の相続人から第三順位の相続人が定められています。第一順位の相続人がいれば第二順位や第三順位の相続人は相続人にはなりませんし、第二順位の相続人がいれば、第三順位の相続人は相続人にはなりません。
また、第一順位から第三順位の相続人は、被相続人に配偶者がいれば、その被相続人の配偶者と一緒に相続人となります。
なお、ここで登場した配偶者と第一順位から第三順位の相続人以外の人が相続人になることはありません。配偶者や第一順位から第三順位の相続人が誰もいない場合には、法定相続人はゼロ人ということになります。
では、それぞれ詳しく解説していきましょう。
第一順位の法定相続人
第一順位の法定相続人は、原則として被相続人の子です。そして、被相続人の子が、被相続人の死亡以前に死亡するなどして相続権を失ったときは、その亡くなった子の子である被相続人の孫が、代襲して相続人となります。
ここでいう「子」には、もちろん実子も含まれますし、養子も含まれます。
また、あくまでも法律上の親子関係がある必要がありますので、配偶者の連れ子と養子縁組をしていないのであれば、たとえ何十年も実の親子同様に暮らしてきたとしても、その子は相続人ではありません。
一方で、仮に何十年も音信がない子がいたとしても、子である以上は、原則として相続人に含まれます。なお、第一順位の相続人の代襲の回数には制限はありません。
ですから、子も、その子の子である孫も被相続人の死亡以前に亡くなっている場合には、ひ孫が代襲して相続人となることもあり得ます。
第二順位の法定相続人
第二順位の相続人は、被相続人の直系尊属です。「直系尊属」はあまり耳慣れない言葉かもしれませんが、父母や祖父母のことを指すと考えてください。
直系尊属のうち、最も親等の近い人だけが相続人になります。
たとえば、両親も祖父母も存命なのであれば、祖父母は相続人にはならず、両親のみが相続人になるということです。また、母と、父方の祖母が存命で、父が既に亡くなっている場合には、母だけが相続人となり、父方の祖母は相続人ではありません。
この点は、代襲相続とは少し考え方が違いますので、誤解のないように整理しておきましょう。こちらも第一順位の相続人と同様、たとえ何十年と会っていなかったとしても、原則として相続人になる権利に変わりはありません。
第三順位の法定相続人
第三順位の相続人は、被相続人の兄弟姉妹です。兄弟姉妹の中に被相続人の死亡以前に亡くなっている人がいる場合には、その亡くなった兄弟姉妹の子である被相続人の甥姪が、代襲して相続人に入ります。
ただし、第一順位の相続人とは違い、兄弟姉妹の代襲は一度のみとされています。つまり、亡くなった兄弟姉妹の子である甥姪も亡くなっていた場合には、その甥姪の子は、もはや相続人にはなり得ないということです。
また、異母兄弟や異父兄弟といった、父母のどちらか一方だけが同じである兄弟姉妹も相続人です。こちらも、たとえ長年音信がなかったとしても、相続の権利に影響はありません。
配偶者
被相続人に配偶者がいれば、配偶者は常に相続人となります。ここまで見てきた第一順位から第三順位の相続人とは別枠という扱いです。
ただし、相続人となる配偶者は、法律上の配偶者に限られます。たとえ長年一緒に暮らしてきたとしても、籍の入っていない内縁関係の配偶者は相続人ではありません。
また、仮に離婚係争中であったとしても、相続開始時点で籍が入っているのであれば、原則として法定相続人にカウントされます。
相続税の基礎控除は「養子縁組」や「相続放棄」で変わる?
ここまでで解説してきた通り、相続税の基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算をします。そして、この基礎控除額が大きければ大きいほど相続税が低くなることもお伝えしました。
つまり、この「法定相続人の数」が多ければ多いほど基礎控除額が大きくなり、相続税が低くなるわけです。では、養子をとったり相続放棄したりすることで、基礎控除額を増やすことはできるのでしょうか?
養子を増やせば相続税の基礎控除は増える?
養子を増やして法定相続人の数を増やせば、相続税の基礎控除額を増やすことはできるのでしょうか?結論からお伝えすれば、「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」という計算上、この「法定相続人の数」に算入できる養子の数は制限されています。そのため、養子を多くとったからと言って、無限に基礎控除額を減らせるわけではありません。
実は、以前は特に計算上カウントできる養子の人数に制限はありませんでした。しかし、養子を無数に増やすことによる相続税の過度な節減を防ぐため、昭和63年に相続税法が改正され、現在の形となったという経緯があります。
基礎控除計算上の法定相続人の数に算入できる養子の人数は、次のとおりです。
- 被相続人に実の子供がいる場合:1人まで
- 被相続人に実の子供がいない場合:2人まで
つまり、配偶者と実子が2人いる人が、たとえ養子を10人とったとしても、基礎控除の計算上カウントできる養子は1人だけということです。この場合の相続税の基礎控除額は、次のように5,400万円となります。
- 基礎控除額 = 3,000万円+600万円×4人(配偶者・実子2名・養子1名)=5,400万円
特別養子の場合の取り扱い
ここでいう「養子」とは「普通養子」のことをいい、特別養子である場合の取り扱いは実子と同様です。特別養子とは、養子となる子が生みの親との法的な親子関係を解消し、実の子と同じ親子関係を結ぶ制度です。
これは子どもの福祉の増進を図るために設けられている制度であり、養親側に一定の要件が科せられるほか、家庭裁判所の決定を経て行います。そもそも、相続税の基礎控除に算入できる養子の数の制限は、過度な節税を防ぐ目的のものです。
一方、特別養子であれば、通常は相続税を減らすために行うようなものではないため、実子と同様の取り扱いとされているのです。
養子は相続で財産をもらえないのか
相続税の基礎控除の計算上、カウントできる養子の数が1人または2人までと制限されていることは、前述のとおりです。
では、実子がいる被相続人に養子が3人いる場合には、養子のうち2人は相続で財産をもらう権利がないということでしょうか?結論からお伝えすると、そのようなことはありません。養子であっても、相続で財産をもらう権利は実子と同様です。
仮に、被相続人に配偶者がおらず、実子2名と養子3名がいる場合には、実子も養子もそれぞれの法定相続分は5分の1であり、差はないのです。もちろん、養子のうち財産をもらう権利があるのは1人だけという話でもありません。
1人または2人までの人数制限は、あくまでも相続税の基礎控除額を計算するにあたってのことです。実際に財産をもらう権利があるかどうかということとはまったく別の規定ですので、誤解のないようにしておいてください。
相続放棄で相続税の基礎控除は変わる?
それでは、相続放棄をすることによって基礎控除額を増やすことはできるのでしょうか?結論からお伝えすれば、相続放棄をすることで基礎控除額を変動させることはできません。
相続放棄により相続の権利はどうなる?
相続放棄とは、家庭裁判所へ申述することにより、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続できなくなるという、非常に強い効力を持つ手続きです。相続放棄をすることにより、その人は最初から相続人ではなかったこととされます。
その結果として、第一順位の相続人がすべて相続放棄をしたような場合には、次の順位の相続人へと相続の権利が移るのです。
たとえば、配偶者と子1名の計2名が法定相続人である一方で、被相続人の兄弟姉妹が10名いるような場合で考えてみましょう。被相続人の両親は、既に他界しているものとします。
この場合に、子が相続放棄をすると、子は最初から相続人はなかったこととなります。つまり、第一順位の相続人がいない状態となるわけです。
これにより、第三順位の相続人である被相続人の兄弟姉妹10名と被相続人の配偶者の、計11名が相続人となります。
相続放棄は、相続税の基礎控除額へ影響するか
では、これを利用して相続税の基礎控除額を増やすことはできるのでしょうか?
法定相続人が2名である場合の相続税の基礎控除額は4,200万円です。
- 基礎控除額 = 3,000万円+600万円×2名=4,200万円
一方で、仮に11名である場合は9,600万円となります。
- 基礎控除額 = 3,000万円+600万円×11名=9,600万円
仮にこれが認められれば、子が相続放棄をすることにより、かなりの節税ができてしまいます。しかし、前述のとおり、相続放棄によりこのような節税をすることはできません。
なぜなら、相続税の計算に用いる法定相続人の数は、「相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数とする」と、相続税法15条2項で記されているためです。ですから、前述の例で子が相続放棄をしたとしても、相続税の基礎控除額は放棄がなかった場合と同様4,200万円であり、変わりはありません。
相続放棄によって実際の相続人が増えたとしても、相続税の基礎控除額を増やすことはできないことも覚えておいてください。
まとめ
相続税の基礎控除額の考え方について、お分かりいただけたのではないでしょうか?相続税の基礎控除額を知っておくことにより、相続税の申告が必要そうかどうかを大まかに把握することができます。ご家族やご自身の基礎控除額を把握してみてください。
仮に財産総額が基礎控除額以下で相続税がかからなかったとしても、亡くなった人の持っていた財産の名義変更などの手続きは必要です。中でも、大変な思いをされる方が多い手続きの一つに、自宅の土地や建物といった不動産の名義変更があります。
差し迫って行う必要性も感じないという場合には、ついつい面倒で後回しにしてしまっているという方も多いのではないでしょうか?
そんなとき、ぜひご検討頂きたいのが、そうぞくドットコムのサービスです。当社AGE technologiesが提供するそうぞくドットコム不動産は、相続で発生した自宅や土地などの不動産の名義変更手続きを、Webを使って効率化するサービスです。