遺産を相続する際は、税金がかかる場合とかからない場合があります。
税金がかかる場合には申告や納税の手続きをしなければなりません。
申告漏れを起こして罰則を科されないためにも、遺産の相続でかかる税金について理解しておくことが大切です。
今回は、遺産の相続でかかる税金の種類や計算方法、自分で税額を計算する際の注意点、生前にできる税金対策について解説します。
遺産の相続でかかる税金は?

遺産の相続でかかる可能性がある主な税金は、「相続税」と「登録免許税」の2つです。
- 相続税
- 登録免許税
相続税はかかる場合とかからない場合がある
遺産の相続では相続税がかかる場合とかからない場合があります。
遺産を相続するからといって、相続税が常にかかるわけではありません。
遺産は、遺された遺族の生活を支える大切な財産であり、遺族に対する一定の配慮が必要です。
そのため、たとえば遺産額が少ないようなケースでは、相続税は課されず遺族が遺産をすべて受け取れるようになっています。
不動産の相続では登録免許税がかかる
土地や家などの不動産を相続するときには登録免許税がかかります。
登録免許税は、不動産の名義変更である登記をする際に納付する税金で、税額は不動産の価格(固定資産税評価額)に税率0.4%をかけて求めた金額です。
たとえば、2,000万円の土地を相続する場合には、8万円(=2,000万円×0.4%)の登録免許税がかかります。
相続税は遺産額がいくらからかかる?

いくら遺産を相続すると相続税がかかるのかを考える上では、次の3つがポイントになります。
- 遺産額が基礎控除額以下であれば相続税はかからない
- 配偶者が相続する場合は遺産額1億6千万円まで相続税はかからない
- 特例制度や控除制度を使えると相続税がかからない場合がある
遺産額が基礎控除額以下であれば相続税はかからない
相続税の基礎控除額とは次の計算式で求めた金額で、相続する遺産の金額が基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。
- 相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × (法定相続人の数)
たとえば、相続人が1人の場合は3,600万円まで、2人の場合は4,200万円まで、3人の場合は4,800万円まで、遺産を相続しても相続税がかからないということです。
実際に相続が起きた場合、遺産額が基礎控除額以下で相続税がかからないケースも多いので、まずは遺産額が基礎控除額を超えるかどうかを確認することになります。
配偶者が相続する場合は遺産額1億6,000万円まで相続税はかからない
配偶者が遺産を相続する場合、次のいずれか多い金額の遺産まで相続税はかかりません。
- 1億6千万円
- 配偶者の法定相続分相当額
法定相続分は、各相続人がどれだけの遺産を相続するのか、法律で定められた相続割合です。
配偶者の法定相続分は、配偶者と子が相続人の場合は2分の1、配偶者と親が相続人の場合は3分の2、配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は4分の3になります。
特例制度や控除制度を使えると相続税がかからない場合がある
先ほど紹介したように、遺産額が基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。
一方で、遺産額が基礎控除額を超える場合は、相続税がかかる場合とかからない場合があります。
遺産額が基礎控除額を超えるものの相続税がかからない場合とは、たとえば次のようなケースです。
- 未成年者控除や障害者控除を適用できて相続税がかからない場合
- 土地の相続で小規模宅地等の特例を適用できて相続税がかからない場合
まず、遺産額が基礎控除額を超えれば基本的に相続税がかかり、計算した税額に基づいて納税を行う必要があります。
しかし、未成年者や障害者が遺産を相続する場合には、この計算した税額からさらに一定額を差し引ける(控除できる)ため、控除額が大きければ相続税がかからずに済む場合があるのです。
また、居住用や事業用の土地など、一定の要件を満たす土地を相続する場合には、土地の価格を最大80%減額してから相続税を計算できる小規模宅地等の特例を適用できる場合があります。
小規模宅地等の特例を適用できれば税額軽減効果がかなり大きく、相続税がかからずに済む場合も少なくありません。
相続税の計算方法

相続税は、次の順序で計算していきます。
- 遺産の総額を求める
- 遺産の総額から基礎控除額を引く
- 税率を適用して相続税の総額を求める
- 各相続人の相続税額を求める
遺産の相続で具体的に税金がいくらかかるのか、気になる方も多いと思います。
ご自身のケースで相続税が一体いくらかかるのか、ここで紹介する計算手順に従って実際に計算してみましょう。
ステップ①:遺産の総額を求める
まずは、亡くなった方が遺した財産を一つひとつ確認して、相続税の計算の基礎になる遺産総額を求める必要があります。
遺品整理を行って家に遺されている財産を確認し、銀行や証券会社など亡くなった方が口座を持っていた金融機関に連絡して口座残高の確認を行いましょう。
現預金や不動産などのプラスの遺産だけでなく、借金や未払金などのマイナスの遺産も相続税の計算に含まれるので、故人に借金がある場合は未返済額の確認も行います。
ステップ②:遺産の総額から基礎控除額を引く
遺産に含まれる財産を把握して遺産総額を求めたら、基礎控除額を差し引きます。
基礎控除額は、先ほどお伝えしたように、法定相続人の数に600万円を掛け合わせて3,000万円を加えた金額です。
遺産額が基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。
遺産額が基礎控除額を超える場合、つまり遺産総額から基礎控除額を差し引いた額がゼロを超える場合は、次のステップに移り税率を掛け合わせます。
ステップ③:税率を適用して相続税の総額を求める
遺産総額から基礎控除額を引いて求めた金額を、各相続人の法定相続分に応じて配分します。
配分した金額の大きさによって適用される税率の大きさが決まり、金額が大きいほど税率が高くなる仕組みです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
参照元:国税庁ホームページ
たとえば、遺産総額が7,000万円、配偶者と兄の2人が遺産を相続する場合、遺産額から基礎控除額4,200万円を引いた後の2,800万円を法定相続分に基づいて次のように配分して税率が決まります。
- 配偶者の法定相続分 = 2,800万円 × 3/4(法定相続割合)= 2,100万円 ⇒ 税率は15%
- 兄の法定相続分 = 2,800万円 × 1/4(法定相続割合)= 700万円 ⇒ 税率は10%
そして、各相続人に配分した金額にそれぞれの税率を掛け合わせ、求めた金額を合計して相続税の総額を求めます。
配偶者と兄が遺産7,000万円を相続する上記の事例であれば、次のように計算できるため相続税の総額は335万円です。
- 2,100万円 × 15% - 50万円 + 700万円 × 10% = 335万円
ステップ④:各相続人の相続税額を求める
相続税の総額を、各相続人が実際に相続した遺産の割合に応じて配分し、各相続人の相続税額を求めます。
たとえば、配偶者と兄が遺産7,000万円を相続して総額335万円の相続税がかかる上記のケースで、実際の遺産相続割合が仮に配偶者5分の3、兄5分の2であれば、各相続人の相続税額は次のとおりです。
- 配偶者の相続税額 = 335万円 × 3/5 = 201万円(但し配偶者の税額軽減により相続税はゼロ)
- 兄の相続税額 = 335万円 × 2/5 =134万円(但し2割加算が適用されるため160.8万円)
配偶者の場合は少なくとも1億6千万円の遺産まで相続税がかからないため、配偶者の相続税額は201万円ではなくゼロになります。
また、配偶者や子、親が相続人になる場合とは違い、亡くなった人の兄弟姉妹が遺産を相続する場合は税額が2割加算されるため、兄の相続税額は134万円を1.2倍した160.8万円になります。
相続税を計算するときの注意点

相続税は、さきほど紹介した手順に従って計算すれば税額を求められますが、計算する際には注意すべき点があります。
特に次のようなケースでは計算を間違えやすいので注意が必要です。
- 相続人の中に相続放棄者がいる場合
- 相続人の中に養子がいる場合
- 代襲相続人が遺産を相続する場合
注意点①:相続人の中に相続放棄者がいる場合
相続開始後に家庭裁判所で手続きをして相続放棄をした人は、最初から相続人ではなかった扱いになります。
つまり、相続放棄をした人には相続権がなく遺産は相続しません。
ただし、基礎控除額を計算する際の法定相続人の人数については、相続放棄がなかったものとした場合の人数を用います。
相続放棄をした人がいても、基礎控除額が減るわけではないので、計算する際には間違えないように気をつけましょう。
たとえば、本来の相続人が3人でその中の1人が相続放棄をした場合、実際に遺産を相続するのは2人でも、基礎控除額の計算では法定相続人の数を3人として計算するため、基礎控除額は4,800万円です。
注意点②:相続人の中に養子がいる場合
実子と同じく、養子も法定相続人になり遺産を相続できます。
ただし、相続税を計算する際、法定相続人の数に含められる養子の数には制限があり、何人でも計算に含められるわけではありません。
法定相続人の中に養子がいる場合に、基礎控除額の計算で法定相続人の数に含められる養子の人数は次のとおりです。
- 被相続人に実子がいる場合は、養子のうち1人までを法定相続人に含められる
- 被相続人に実子がいない場合は、養子のうち2人までを法定相続人に含められる
注意点③:代襲相続人が遺産を相続する場合
代襲相続とは、相続が起きた時点で本来の相続人が既に亡くなっていて、本来の相続人の代わりにその子が相続人になって遺産を相続することです。
たとえば、親が亡くなり本来であれば子が相続人になるケースにおいて、子が既に亡くなっていたため子の子(つまり孫)が代わりに相続人になる場合が代襲相続にあたります。
代襲相続人にも本来の相続人と同様に遺産を相続する権利が法的に認められるため、代襲相続人になるために何か特別な手続きなどは必要ありません。
そして、代襲相続人になる人が複数人いる場合は、そのすべての人が代襲相続人になります。
たとえば、本来の相続人が子であれば相続人は子1人ですが、子が既に亡くなっていてその子に子(つまり孫)が3人いれば、代襲相続によって3人の孫全員が相続人になるということです。
つまり、代襲相続が起きるケースと起きないケースでは、法定相続人の数が変わって相続税の基礎控除額の計算などに違いが生じる場合があります。
遺産相続に備えて生前にできる税金対策

遺産の相続に備えて生前にやっておきたいのが、相続税の節税につながる税金対策です。
相続税を少しでも安くするための対策をしておけば、相続税の納税後に相続人の手元に残る財産が増えることになり、実質的により多くの財産を家族に遺せることになります。
ここでは相続税の税金対策として次の3つを紹介するので、それぞれ一体どのような方法なのかを見ていきましょう。
- 子供や孫に財産を生前贈与する
- 生前に資産を組み換えておく
- 養子縁組で基礎控除額を増やす
税金対策①:子供や孫に財産を生前贈与する
相続税を減らす方法の1つ目は、財産を生前贈与して相続税の課税対象になる遺産を減らす方法です。
自分の財産を生前に子供や孫に贈与しておけば、自分が亡くなって相続が開始したときに、贈与済の財産は相続税の課税対象にならずに済みます。
ただし、相続開始前3年以内に相続人に生前贈与した財産には相続税がかかる点に注意が必要です。
相続税の税金対策として生前贈与を活用する場合には、相続開始直前ではなく早めに財産を贈与しておくようにしましょう。
税金対策②:生前に資産を組み換えておく
将来の遺産相続に備えるための税金対策の2つ目は資産の組み換えで、生前に資産を組み換えておくと相続税を軽減できる場合があります。
たとえば、現金から不動産に資産を組み換えておき、相続人が不動産で相続する方法がその一例です。
不動産の相続税評価額は一般的に時価よりも低く、現金のまま相続人が相続するよりも、不動産で相続したほうが相続税を低く抑えられるケースがあります。
税金対策③:養子縁組で基礎控除額を増やす
遺産相続に備えて生前にできる税金対策の3つ目は、養子縁組の活用です。
養子縁組をして法定相続人の数を増やせば、基礎控除額が増えるため相続税の節税になる場合があります。
ただし、先ほど解説したように、相続税を計算するときに法定相続人の数に含められる養子の人数には制限がある点には注意が必要です。
また、ケースによっては、養子縁組をすることで相続関係が変わり、養子縁組をする前よりも法定相続人の数が減って相続税が逆に増えてしまう場合もあります。
養子が相続人になると他の相続人の遺産の取り分が減ってしまい、不満を抱く相続人が出て相続トラブルになることもあるので、実際に養子縁組をするかどうかは慎重に検討するようにしましょう。
まとめ
遺産を相続するときには税金がかかる場合とかからない場合があります。
そのため、相続が開始したら、まずは税金がかかるのかどうかを確認してみましょう。
そもそも遺産額が基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。
逆に、相続税がかかる場合には申告や納税の手続きが必要になります。
申告や納税をし忘れないためにも、遺産の相続と税金の関係を正しく理解しておくことが大切です。