土地を相続する際、注意すべき点の一つが評価額の計算方法です。
市場取引価格や固定資産税評価額、相続税評価額など、土地にはいくつかの価格があり、どの金額を用いるかで計算結果が変わってしまいます。
どのような場合にどの価格を使うのかを理解して、土地の評価額を正しく計算できるようにしておきましょう。
この記事では、路線価方式と倍率方式の違いや路線価・固定資産税評価額の調べ方など、土地を相続するときの評価額の計算方法について解説します。
目次
相続する土地の評価額が問題になる場面

相続する土地の評価額が問題になる場面としては、主に次の2つが挙げられます。
- 相続税を計算するとき
- 遺産分割協議をするとき
土地の評価額の計算を間違えないように、それぞれのケースで土地の評価額として何の価格を用いるのか解説していきましょう。
相続税を計算するとき
相続税は、個々の遺産の金額を合計して遺産総額を求めて、税率をかけ合わせて税額を計算します。
遺産に土地が含まれる場合、土地の価格も足し合わせますが、このときに使う土地の価格は相続税評価額です。
土地を売買するときの取引価格(実勢価格)を使って計算するわけではありません。
不動産の相続税の計算で使う相続税評価額は、一般的に実勢価格(時価)の7~8割ほどの価格になります。
遺産分割協議をするとき
誰がどの遺産を相続するのか、遺産分割協議をして決める際、土地の価格をどのように評価するかを巡って相続人同士で揉めて争いになることがあります。
たとえば、土地の評価額を時価で考える人と相続税評価額で考える人がいた場合、時価で考えると土地を相続する人の相続額は多くなります。
しかし、時価よりも低い相続税評価額で考えると、土地を相続する人の相続額は少ないことになるため、少ない遺産額では納得できず他の遺産も相続したいと主張することがあるのです。
そして、遺産分割協議で揉めて合意できない場合は、裁判所に申立てをして解決することになります。
裁判所が判断する場合は、土地の価格として実勢価格を用いるのが一般的です。
土地の相続税評価額の計算方法は2種類

土地の相続税評価額の計算方法には、「路線価方式」と「倍率方式」の2種類あり、どちらの方法で計算するかは土地ごとに決まっています。
まずは、それぞれの計算方法がどのようなものなのか、概要について解説しましょう。
路線価方式
路線価とは、路線(道路)に面している標準的な宅地の1㎡当たりの千円単位の価格のことです。
路線価が定められている地域の土地では、路線価を使って相続税評価額を求める路線価方式によって土地の評価額を計算します。
- 土地の評価額=路線価×面積×補正率
路線価方式では、路線価に土地の面積をかけ合わせて、さらに土地の形などに応じて補正を行って評価額を求めます。
そのため、仮に面積が同じ土地があっても、相続税の計算で使う評価額が同じとは限りません。
たとえば、形が歪で利便性に欠ける土地の場合、補正によって相続税評価額が下がることがあります。
補正によって土地の評価額が下がるケースについては後ほど解説します。
倍率方式
倍率方式とは、路線価が定められていない地域の土地で評価額を計算するときに使われる方式です。
その土地の固定資産税評価額に一定の倍率をかけ合わせて評価額を求めます。
- 土地の評価額=固定資産税評価額×倍率
路線価の決まり方・調べ方

市街地にある土地では路線価方式が適用されることが多いので、市街地の土地を相続する場合は、一般的に路線価を調べて相続税評価額を計算することになります。
路線価を使って土地の評価額を求めるときには、いつ時点の路線価を使うのか迷う人もいるので、路線価の決まり方や調べ方を事前に確認しておきましょう。
毎年7月に発表される
路線価は、その年1月1日時点の土地の価格で、毎年7月に国税庁から発表されます。
家族が亡くなり土地を相続する場合、土地の評価額の計算で使う路線価は、相続が起きた年の7月に発表された価格です。
つまり、相続が1月に起きても12月に起きても、同じ路線価を使うことになります。
そして、相続が開始した時期が1月~6月の場合は、まだ路線価が公表されていないので、土地の相続税評価額を計算することができません。
そのため、この場合には、一般的に路線価が発表される7月まで待ってから相続税を計算して申告や納税を行います。
国税庁サイトで検索できる
路線価は次の国税庁サイト(路線価図・評価倍率表)で検索できます。
国税庁のサイトの地図上で、路線価を調べたい土地がある都道府県を選択して、該当する市区町村を選択すれば路線価が表示されます。
-e1636720764525.jpg)
出典:国税庁
地図上に表示されている数字は千円単位で、たとえば215と記載されていれば路線価は215,000円ということです。
また、数字の横に記載されたA~Gの記号は借地権割合を表し、Aが90%・Gが30%で10%刻みで割合が小さくなります。
-e1636720783231.jpg)
出典:国税庁
土地を借りている場合や貸している場合は、土地の評価額を計算する際に借地権割合が考慮される仕組みになっています。
また、普通住宅地区や繁華街地区など、地区の区分によっても土地の相続税評価額が変わる場合があるので、国税庁サイトでは地区の区分もわかるようになっています。
固定資産税評価額の決まり方・調べ方

農村部など市街地以外の地域にある土地では倍率方式が適用されることが多く、土地の相続税評価額を計算するときには、まずは固定資産税評価額を調べることになります。
すでに土地を持っていて固定資産税の支払いをしている人にとっては身近な税金ですが、人によっては固定資産税のことがそもそもよくわからないという人もいるでしょう。
ここでは、土地の相続税評価額の計算で使う固定資産税評価額の決まり方や調べ方について紹介していきます。
3年に1度見直しが行われる
固定資産税評価額とは、1月1日を基準日として3年に1度、4月頃に公表される土地の価格で、固定資産税や不動産取得税、相続税などの計算で使われます。
固定資産税は3年に1度見直しが行われることになっており、直近に評価替えが行われたのは2021年です。
2021年4月~2024年3月の3年間は同じ基本的には価格が適用されます。
そして、相続税の計算で注意しなければならないのが、相続が起きた日が属する年度の固定資産税評価額を計算で使う点です。
路線価のように、相続が起きたタイミングが1月でも12月でも同じ価格を使うとは限りません。
たとえば、相続の開始が2021年3月の場合は2018年公表の固定資産税評価額を使いますが、2021年4月に相続が開始した場合は、2021年公表の固定資産税評価額を使うことになります。
納税通知書で確認できる
固定資産税評価額は、毎年4月頃に届く納税通知書(固定資産税課税明細書)に記載されています。
亡くなった方の部屋などで納税通知書を探すか、不動産がある地域の役所で納税通知書を入手して評価額を確認しましょう。
また、不動産がある地域の役所に行って固定資産課税台帳を確認する方法でも、固定資産税評価額を確認できます。
固定資産税評価額を確認したら、国税庁サイト(路線価図・評価倍率表)で土地に適用される倍率を確認して、両者をかけ合わせて評価額を計算しましょう。
土地の評価額が減額されるケース

面積や形が同じでも土地の状況によっては評価額が変わることがあり、また面積が同じでも形が違えば利便性に差が生じるので、評価額に違いが出ることがあります。
- 土地を借りている場合
- 土地の上に賃貸アパートが建っている場合
- 居住用や事業用として土地を使っている場合
- 土地の形状が特殊な場合
- 宅地の利用価値が著しく低い場合
実際に評価額を計算する際には、専門的な知識が必要になるため税理士に依頼することになりますが、どのようなケースで土地の評価額が下がるのかは理解しておきましょう。
ご自身が相続する土地がここで紹介するケースに該当する場合は、思っているよりも相続税がかからない場合があります。
土地を借りている場合
土地を借りている場合は、土地そのものではなく、借りている権利である借地権が相続の対象になります。
普通借地権の評価額は、自用地としての土地の価格に借地権割合をかけ合わせて求めた額です。
借地権割合は、さきほど「路線価の決まり方・調べ方」で紹介した国税庁サイトで確認できます。
- 借地権の評価額=自用地としての評価額×借地権割合
一方で、土地を貸している場合は、土地を自分で使う場合のように自由には使えません。
そのため、土地を自由に使える場合よりも評価額が下がることになり、次の式で求めた額が土地の相続税評価額になります。
- 土地の評価額=自用地としての評価額×(1-借地権割合)
土地の上に賃貸アパートが建っている場合
土地の上に賃貸アパートや賃貸マンションを建てて部屋を他人に貸している場合も、自分で自由に使えるわけではないため、土地の評価額が低くなります。
土地の相続税評価額は次の式で求めた金額で、借家権割合は一律30%です。
- 土地の評価額=自用地としての評価額×(1-借地権割合×借家権割合(30%))
たとえば、5,000万円の土地に賃貸アパートを建てている場合、国税庁サイトに記載されている借地権割合がC(70%)であれば、相続税評価額は次のように計算できます。
- 5,000万円×(1-70%×30%)=3,950万円
居住用や事業用として土地を使っている場合
亡くなった人が居住用や事業用として使っていた土地を家族が相続する場合、一定の要件を満たすと小規模宅地等の特例を使えます。
小規模宅地等の特例とは、相続する土地の評価額が最大80%減額される特例です。
たとえば、1億円の土地を相続する場合でも、特例によって80%減額できれば相続税の計算に含める価格は2,000万円で済み、節税効果が大きくなります。
特例を使うための要件や対象者は次の記事で解説しているので、住む土地や事業をする土地を相続する人は、要件に該当して税負担が軽くならないか確認してみてください。
土地の形状が特殊な場合
土地の面積が仮に同じでも、形が違えば使い勝手が異なり価値も変わるので、使いにくい土地であれば相続税評価額が減額される場合があります。
形が歪な土地(不整形地補正)
形が歪な不整形地では、不整形地の割合(かげ地割合)に応じて土地の相続税評価額が減額されます。

出典:国税庁
たとえば、普通住宅地区Aにある3,000万円の土地を相続する場合、仮にかげ地割合が18%であれば上の表から補正率が0.96とわかるので、土地の評価額は次のように計算できます。
- 土地の評価額=3,000万円×0.96(不整形地補正率)=2,880万円
間口が狭い土地(間口狭小補正)
間口が狭い土地は他の土地に比べると使いにくいため、間口距離に応じて土地の評価額が減額されます。

出典:国税庁
間口距離が狭いほど減額率が高くなる仕組みで、たとえば間口が3mで普通住宅地区にある土地4,000万円を相続する場合は、補正率が0.90となり次のように計算できます。
- 土地の評価額=4,000万円×間口狭小補正率0.90=3,600万円
奥行が長い土地(奥行長大補正)
間口距離の長さに対して奥行距離が長い土地でも相続税評価額の減額が行われ、「奥行距離÷間口距離」の値に応じて補正が行われます。

間口距離と奥行距離の比率が極端なほど減額率が高くなる仕組みで、たとえば比率が5で普通住宅地区にある土地2,000万円を相続する場合は、補正率が0.92となり次のように計算できます。
- 土地の評価額=2,000万円×間口狭小補正率0.92=1,840万円
宅地の利用価値が著しく低い場合
利用価値が著しく低いと認められる宅地では、相続税評価額が10%減額される場合があります。
- 道路より高い位置にある宅地又は低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差がある宅地
- 地盤に甚だしい凹凸のある宅地
- 震動の甚だしい宅地
- 騒音や日照阻害、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められる土地
具体的には、線路沿いで震動が激しい土地や、ゴミ処理場に隣接していて臭気がある土地、墓地に隣接している土地、マンションに隣接して日当たりが悪い土地などが該当します。
ただし、これらの影響が既に路線価に反映されていて、路線価が低く設定されている場合は評価額の減額はできません。
そのため、相続税評価額の減額対象になるかどうかは現地調査などを行って、路線価に減額が既に反映されているのか未反映なのかを確認することが必要です。
また、上空を高圧電線が通過している土地でも相続税評価額が減額されることがあります。
生前の相続対策で土地の評価額を下げる方法

生前に対策をしておけば、土地の相続税評価額を下げることができて相続税を節税できる場合があります。
- 更地で相続せず賃貸アパートや賃貸マンションを建ててから相続する
- 小規模宅地等の特例の要件を満たすように居住用や事業用の土地として相続する
たとえば、賃貸アパートを建てておけば、更地で相続する場合と違って借地権割合や借家権割合が考慮されるため、土地の相続税評価額が下がることになります。
また、更地ではなく貸駐車場にした上で家族が相続すれば、事業用の土地として小規模宅地等の特例の要件を満たして、評価額を減額できる場合があります。
生前対策を何もしていないと、土地の相続税評価額が高くなって遺族が納税資金の準備で困る場合があるので、土地の相続対策はしっかりと行っておきましょう。
まとめ
相続する土地の評価額は、路線価方式と倍率方式のいずれかの方法で計算します。
どちらの方式が適用されるかは土地ごとに決まっているので、土地の相続税評価額を計算する場合は、国税庁サイトで検索して確認しましょう。
一般的には市街地の土地に適用されるのが路線価方式、それ以外の土地に適用されるのが倍率方式です。
国税庁サイトを使えば、路線価方式で使う路線価や倍率方式で使う倍率も確認ができます。
ただし、土地の評価額の計算では専門的な知識が必要になり、一般の人が自分で計算するのは簡単ではありません。
自分で相続税評価額を計算して申告や納税をすると、適用可能な補正の適用を忘れて評価額を高く算出してしまい、税額を高く計算してしまう可能性があります。
どのような特例を適用できるのかを正しく判定して税負担を確実に下げるためにも、土地の相続のことは専門家である税理士に相談したほうが良いでしょう。