被相続人が亡くなると相続が発生しますが、このときに「遺言書」があった場合には、相続の内容が変わります。
では、遺言者があることによってどう変わるのでしょうか?
今回は、遺言書があった場合の効力について解説していきます。
いつ相続が発生するのか

まず、「相続が発生した」となると、どのようなことが生じるかを前提として知っておきましょう。
相続開始はいつか
相続が開始するのは、「被相続人が亡くなったとき」であると民法で規定されています(民法882条)。
相続が開始するとどうなるか
相続が開始すると、被相続人の財産が民法の規定に沿って相続人に引き継がれることになります。
ただ、遺言がある場合には、遺言の内容に沿って相続が行われることになります。
遺言書の種類

一般方式で作成される遺言書には次の3種類があります。
それぞれについて解説していきましょう。
- 自筆証書遺言書
- 公正証書遺言書
- 秘密証書遺言書
自筆証書遺言書
一般方式でする遺言の方法として、自筆証書遺言があります。
基本的には、遺言書の全文を自書する方式で行われるものです。
自筆証書遺言書は、自筆証書遺言で作成されたものです。
公正証書遺言書
遺言者に遺言の趣旨を伝えてもらい、公証人が遺言書を作成して行う遺言が公正証書遺言です。
公正証書遺言書は公証人が作成し、公証役場で保管されます。
作成したときに正本・謄本が遺言者に渡されますが、これらが相続時の手続きで利用できるものです。
公的な立場の人である公証人によって作成され、通常は弁護士などの専門家に依頼して作るものであるため信頼性が高いです。
また、相続開始後に検認の手続きが不要であることから、実務上最もよく利用されています。
秘密証書遺言書
遺言者が作成して、公証役場で公証人・証人立会いものと封をする方式の遺言が秘密証書遺言で、秘密証書遺言の方式で作られて封がされているものが秘密証書遺言書です。
公証役場が関係する手続きですが、遺言書を作成するのは遺言者です。
遺言書の持つ効力

遺言書があるからといって、そこに書かれていることすべての効力が発生するわけではありません。
法律で定められた次のような事項についてのみ効力が発生します。
- 相続人の廃除等
- 相続分の指定等
- 遺産分割方法の指定
- 遺産分割の禁止
- 相続財産の処分(遺贈)
- 子の認知
- 未成年後見人の指定
- 相続人相互の担保責任の指定
- 遺言執行者の指定または指定の委託
- 生前贈与の持ち戻しの免除
相続人の廃除等
相続人である場合でも、相続をするにふさわしくないような事情がある場合には、相続人としての地位を奪われることがあります。
それが「相続人の廃除」です。
相続人が被相続人を虐待したり非行を行っていたような場合、家庭裁判所に申し立てをして家庭裁判所が相続をするにふさわしくないと判断した場合には、相続人から除かれることになります。
一般的には被相続人が生前に自分で家庭裁判所に申し立てをして行いますが、遺言で廃除をする旨が記載されていたときには、家庭裁判所が認めれば相続人の廃除をすることができます。
相続人から除かれる制度としては「相続欠格」というものもあります。
相続欠格は民法に規定された特定の行為を相続人が行った場合に、家庭裁判所の許可を得るまでもなく相続人ではなくなる制度のことであり、別ものなので注意しましょう。
なお、被相続人に対する相続人による侮辱行為や非行が少しでもあれば相続人の廃除が認められるわけではありません。
被相続人との関係が相続を認めるのに適切ではないと言える程度の関係になっていることが必要です。
そのため、現実には相続人の廃除は認められづらいので、もし相続人から廃除したい人がいるのであれば、生前から専門家に相談しながら確実に行ったほうが良いでしょう。
相続分の指定等
相続が開始したときに、遺産をどのような割合で相続するかについては、民法が詳細に規定をしています(法定相続分)。
例えば、妻と子2名で相続したときには、妻が1/2および子が1/4ずつです。
この相続分の割合は、遺言で指定することが可能となっています。
例えば、すでに相続について家族で話し合った結果、長男にすべて相続させるようなことも可能です。
この指定によって、遺留分を侵害された場合、相続人は「遺留分侵害額請求権」を主張することが可能です。
ただし、これによって遺言書そのものが無効になるわけではありません。
遺産分割方法の指定
相続分に関する法律の規定は割合で示されているため、具体的にどの遺産を誰のものにするかは相続人の話合いで決定します(遺産分割協議)。
遺言で、どの遺産を誰のものにするか、遺産分割方法を指定しておくと、遺言書に記載されている通りに分割がされることになります。
例えば、「不動産は長男に、銀行預金は次男に」といったように指定をしておくことが可能です。
この指定を第三者に委託しておくことも可能です。
遺産分割の禁止
遺言で、5年の期間を定めて遺産分割を禁止することが可能です。
この遺産分割の禁止については、遺言でのみすることができます。
相続財産の処分(遺贈)
相続財産を自分の死後に相続人や相続人以外の第三者に渡すことができ、このことを「遺贈」と呼びます。
遺贈は遺言で行うため、遺言書に記載します。
遺贈をした結果、相続人の遺留分を侵害する場合には、遺留分侵害額請求を遺贈を受けた人(受遺者)が受けることになるため注意が必要です。
また、遺産の額が相続税の基礎控除額を超えているような場合には、相続税を納税する必要があることも覚えておいてください。
子の認知
子が結婚している両親の間に生まれた場合には、法律上も親として認められます。
しかし、結婚していない両親の間に生まれた子は、父に認知されないと法律上の親子関係は認められません。
この認知を遺言ですることが認められています。
未成年後見人の指定
子に両親が居ないような場合には、未成年後見人が指定されます。
未成年後見人は親のように、子の契約などの法律行為に同意を与えたり取消したりすることができます。
生前に最後に親権を行使していた人は、自分が亡くなったときに未成年者の後見人となる人を遺言で指定することが認められています。
相続人相互の担保責任の指定
子3名で遺産を相続し、一人が現金、一人が自宅、一人が自動車を相続したとします。
このときに、実は自宅はすでにシロアリの被害にあっているような場合には、遺産分割の際に想定していた価値よりも実際には下がっていることが考えられます。
このときに、相続人は価値が下がっていた分に対して他の相続人に対して何かしらの請求をでき、このことを担保責任(たんぽせきにん)と呼びます。
典型的には売買契約の時に問題になりますが、遺産分割においても同様に相続人相互に担保責任があることを規定しています。
この担保責任に関する民法の規定と異なる内容の指定を遺言ですることができます。
遺言執行者の指定または指定の委託
遺言がある場合に、遺言の内容を実現する役割の人として「遺言執行者」という人をつけることができます。
遺言執行者は、例えば、「相続人Aには不動産を、Bには自動車を相続させる」という遺言書がある場合に、不動産の名義を被相続人からAに変更する登記をしたり、自動車の名義をBに変える登録をしたりします。
この遺言執行者を指定するには遺言で行うので、遺言書の記載どおりとなります。
遺言執行者となる人の指定を委託する形式で行うこともできます。
生前贈与の持ち戻しの免除
遺産は、基本的には被相続人が亡くなったときに被相続人名義になっていたものですが、生前贈与として受け取っていたものの一定範囲は遺産として考慮することになります。
生前贈与として受け取っていたものを遺産に組み入れて計算をすることを「持ち戻し」と呼んでいます。
この生前贈与の持ち戻しを免除することを遺言で規定することが可能です。
遺言書と遺留分の力関係

例えば、「自分の全財産を愛人に贈与する」というような遺言がある場合、相続人が路頭に迷ってしまうようなこともあります。
この際、遺言書と遺留分はどのような力関係にあるのでしょうか?
遺留分とは
遺留分とは、相続人に最低限認められている権利のことです。
相続分の指定や遺贈や生前贈与によってこれを侵害されると、侵害をした人に対して金銭請求をすることができ、この請求のことを「遺留分侵害額請求権」と呼びます。
少し古いコンテンツを見ると「遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)」という内容で記載されているものもあります。
近時の法律の改正で「遺留分侵害額請求権」という名称に改められ、権利内容も金銭請求になったということを覚えておいてください。
たとえば、遺産が1,000万円で相続人が妻・子2名の場合、子の相続分は250万円となり、その1/2の125万円分が遺留分となります。
子がまったく相続できないような場合には、遺贈を受けた人などに対して125万円の金銭請求をすることが可能です。
遺留分を侵害する遺言がある場合でも遺言書は有効
では、この遺留分侵害額請求ができる場合、遺言書の効力はどうなるのでしょうか?
遺留分侵害額請求は、あくまで遺言書が有効であることを前提に、遺贈を受けた人などに金銭請求をすることができる権利です。
そして、この権利は権利行使がされてはじめて主張することができるのであって、遺留分を侵害したからといって自動的に金銭債権が発生するわけではありません。
この金銭請求は遺言書が無効として扱うものではなく、遺言書はあくまで有効で遺言の効力が発生したことを前提に、遺贈を受けた人に対して金銭請求することが遺留分侵害額請求です。
遺留分侵害額請求を行使するには
では、遺留分侵害額請求を行使するにはどのような手順によるのかを確認しましょう。
遺留分侵害額請求権を行使する
先ほど少し触れましたが、遺留分侵害額請求権は遺留分を侵害する遺言書があった場合に、自動的に金銭請求をする権利が生まれるものではありません。
遺留分侵害額請求権は、侵害者に対する行使をしてはじめて請求できる権利です(このような権利を法律上は形成権と呼びます)。
ですので、相手に遺留分侵害額請求権を行使してはじめて金銭の請求をすることになります。
なお、古い遺留分減殺請求についての記載をみると、「遺贈や生前贈与をどうやって元に戻すか」といった記載が見られると思います。
これらは古い情報で、遺留分侵害額請求権に改正されてからは、単純に金銭請求をすることができるようになっているため注意が必要です。
遺留分侵害額請求権の行使方法
遺留分侵害額請求権は、相手に請求する意思表示をすることが必要です。
この請求方法について法律で定められた規定はありませんが、後述する時効との関係で内容証明郵便を利用することが一般的です。
その後、相手が任意に支払ってこないような場合には民事裁判を利用します。
遺留分侵害額請求権は、法律の形式上は最初に調停を申し立て、調停が調わなかったときにはじめて裁判を起こすことになる調停前置主義が取られています。
調停前置主義がとられている争いについて裁判を行うと、裁判所はまず調停をしてくださいと案件を調停に付する処分を行います(付調停)。
ただ、遺留分侵害額請求権については、争いの内容からは、調停(話し合い)で決着がつくようなものでない場合もあります。
そのため、そのような場合は調停をしないで最初から裁判を提起することもあります。
遺留分侵害額請求権行使をするときの注意
遺留分侵害額請求権については、時効の期間が非常に短いことに注意が必要です。
遺留分侵害額請求権は、遺留分が侵害されていることを知ったときから1年で時効にかかります。
そのため、相手と支払のための交渉をおこなっているうちに、この1年の期間を経過してしまうようなことがあると、時効で請求できなくなることがあります。
仮に交渉である程度話していたとしても、この期間内に遺留分侵害額請求権の行使を相手に伝えていた証拠が残らないと、裁判をしたときに相手に時効の完成を主張されてしまうと勝ち目がないのです。
内容証明郵便は、配達証明というものを付けて送ることによって、送った文書の内容といつそれが相手に到達したかを証明してくれます。
これによって、1年の時効期間が経過するまでの間に遺留分侵害額請求権を行使したことを主張することができることになります。
遺言書の効力を否定する方法

では、遺言書の効力を否定する方法はあるのでしょうか?
最後に、遺言が無効になる場合について解説していきます。
遺言が無効になる場合
遺言書があっても遺言の要件を充たしていなければ、遺言書は無効となります。
- 意思能力がない場合
- 自筆証書遺言が無効な場合
- 公正証書遺言が無効な場合
- 秘密証書遺言が無効な場合
意思能力がない場合
遺言をするにあたっては、意思能力が必要です。
意思能力というのは、簡単に言えば自分のやってることの是非弁別を把握することができる能力です。
よく問題になるのは、認知症を患っているような場合です。
認知症を患っているというような場合でも、一律で遺言をすることができないというわけではなく、是非弁別ができる状態かどうかによります。
カルテなどを根拠に、とても財産の処分についての是非弁別をすることができないような状態であったなら、遺言は無効となり、遺言書の無効を主張することが可能です。
遺言の無効は自筆証書遺言だけではなく、公正証書遺言でもあり得ます。
自筆証書遺言が無効な場合
自筆証書遺言は、遺言書を自筆で書くことになっています。
公正証書遺言の場合のように専門家に依頼をして公証人と話しながら進めてくれるわけではないため、法律が定めている書き方に沿わない方法で記載をしてしまっていることがあります。
例えば、日付がない、押印がない、遺産目録以後のところにも一部パソコン・ワープロを使ってしまったということが考えられます。
このような場合、自筆証書遺言は無効となります。
公正証書遺言が無効な場合
公正証書遺言は、法律上は遺言の趣旨を公証人に伝えた上で、公証人がこれに基づいて作成をします。
公証人となる人は元裁判官などで、法律および法律手続きのプロフェッショナルなので、無効になるような誤りはあまりしません(ですので実務上も信頼されて多くの人に使われています)。
証人となる人が証人になれない人であったような場合など、極めて例外的な手続きの誤りがあったような場合に限られます。
秘密証書遺言が無効な場合
秘密証書遺言は、作成は本人が行い公証役場で秘密証書遺言としての取り扱いに関する手続きを行います。
どのような内容の遺言が作成されたかについては公証役場で確認を行いません。
そのため、作成した内容が遺言作成の方式に沿わなければ無効となります。
遺言書の無効を主張するための方法
遺言書の無効は、最終的には裁判所で決められます。
自筆証書遺言と秘密証書遺言については、まず検認の手続きをして遺言書の状態を確定した上で、その遺言についての無効確認の訴えを裁判所に提起して行います。
まとめ
遺言書の効力についてお伝えしました。
遺言書があった場合の手続きについてわからないことがあれば、弁護士など専門家に相談するようにしましょう。