生前に「相続対策」すべき理由とは?相続税の節税対策と争続対策方法

生前に「相続対策」すべき理由生前贈与
この記事を監修した専門家は、
牛腸真司
税理士
立命館大学卒業2011年、税理士登録。税理士登録番号は118275。2012年 東京都港区益本公認会計士事務所(現税理士法人総和)にて資産税対策専任。2015年 千葉県税理士会登録。千葉県税理士会松戸支部広報部員。

将来の相続に備えて早くからやっておくべきなのが「相続対策」です。生前に相続対策をしておけば、相続税を節税できる場合や相続トラブルを回避できる場合があり、相続開始後の相続人の手続負担を軽減できる場合があります。

逆に、相続対策をしていないと、税負担が増えてしまったり相続人同士で争いになったりすることがあるため注意が必要です。

そこで今回は、生前にやっておくと良い相続対策について具体的な方法を紹介します。実際に実践できる方法がないかを確認して、少しでも早くから相続対策を行うようにしましょう。

目次

生前に相続対策を行うべき理由

生前に相続対策を行うべき理由

生前に相続対策をしておくことのメリットとしては、主に次の3点が挙げられます。

生前に相続対策を行うメリット
  1. 相続税を節税できる
  2. 相続トラブルを回避できる
  3. 相続開始後の相続人の手続負担を軽減できる

まず、相続税を節税できれば、納税後に相続人の手元に残る遺産が増えることになります。大切な家族に少しでも多くの財産を遺せるように、生前に相続対策をしておくことが大切です。

また、相続トラブルを回避できれば相続人の精神的な負担が減り、相続開始後に必要になる手続きを減らせれば相続人の手続負担を軽減できます。遺産をより多く残して相続人の負担をより少なくするためにも、相続対策をしっかりと行うようにしましょう。

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相続税の節税対策:生前贈与を活用する方法

ここからは、相続が開始したときにかかる相続税を少しでも減らす方法を紹介します。相続税を節税できれば、納税後に相続人の手元に残る遺産額が増えて実質的により多くの財産を遺せるようになるので、実践できそうな方法がないか確認してみてください。

まずは、生前贈与を活用する方法を紹介します。

生前贈与を活用する方法
  • 生前贈与で課税対象になる相続財産を減らす

生前贈与で課税対象になる相続財産を減らす

生前にできる相続税対策の1つ目は、「生前贈与」です。生前に財産を贈与すれば、相続税の課税対象になる相続財産が減って相続税を節税できます。

生前贈与をするときに活用したい方法や特例制度
  • 暦年贈与
  • 贈与税の配偶者控除
  • 住宅取得等資金の贈与の非課税制度
  • 教育資金の贈与の非課税制度
  • 結婚・子育て資金の贈与の非課税制度
  • 相続時精算課税制度

財産を贈与すると贈与税がかかる場合があるため、生前贈与をするときには贈与税を節税できるかどうかがポイントになります。

暦年贈与

一般的に、1月1日~12月31日の1年間に贈与する財産の額が110万円を超えると贈与税がかかります。逆に、1年間に贈与する財産額を110万円以下に抑えれば贈与税はかかりません。

贈与税のこの仕組みをうまく使って行う生前贈与が暦年贈与です。毎年110万円以下の財産を贈与すると、贈与税をかけずに将来の相続財産を減らすことができて相続税も節税できます。

贈与税の配偶者控除

贈与税の配偶者控除とは、居住用の不動産や居住用不動産の購入資金を配偶者に贈与したときに、2,000万円の贈与まで贈与税がかからずに済む特例制度です。夫婦の婚姻期間が20年以上の場合、この特例制度を使うことができます。

相続によって自宅を配偶者に渡す方法もありますが、相続まで待たず生前に贈与する場合には、この特例制度を使って贈与すると良いでしょう。

住宅取得等資金の贈与の非課税制度

住宅取得等資金の贈与の非課税制度とは、自分が住む家を新築・取得・増改築するための費用を父母や祖父母などの直系尊属から贈与された場合に、一定額の贈与まで贈与税がかからない制度です。非課税になる上限額は、最高1,000万円の贈与まで非課税になります。

贈与を受ける人の年齢や所得、家の床面積など、条件が細かく決まっているため当制度を利用する際は条件の確認が必要ですが、贈与税負担を抑えながら住宅取得資金を贈与できる点がメリットです。

教育資金の贈与の非課税制度

教育資金の贈与の非課税制度とは、父母や祖父母などの直系尊属から教育資金の贈与を受けた場合に、最大1,500万円の贈与まで贈与税がかからずに済む特例制度です。贈与を受ける人が30歳未満で、贈与する教育資金を管理するための口座を金融機関で開設するなど、一定の要件を満たすとこの特例制度を使うことができます。

非課税制度の対象になる主な教育費
  • 入学金や授業料、入園料、保育料、入学(園)試験の検定料
  • 学用品の購入費、修学旅行費や学校給食費など学校等における教育に伴って必要な費用

結婚・子育て資金の贈与の非課税制度

結婚・子育て資金の贈与の非課税制度とは、父母や祖父母などの直系尊属から結婚や子育てのための資金の贈与を受けた場合に、最大1,000万円の贈与まで贈与税がかからずに済む特例制度です。

贈与を受ける人が成人以上50歳未満で、贈与する結婚・子育て資金を管理するための口座を金融機関で開設するなど、一定の要件を満たすとこの特例制度を使うことができます。

非課税制度の対象になる主な結婚・子育て費用
  • 挙式費用、衣装代等の婚礼(結婚披露)費用
  • 家賃、敷金等の新居費用、転居費用
  • 不妊治療、妊婦健診、分べん費、産後ケアに要する費用
  • 子の医療費、幼稚園・保育所等の保育料

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、贈与財産のうち2,500万円までは贈与税がかからずに済む制度で、60歳以上の父母や祖父母から成人以上の子や孫に財産を贈与するときに使える制度です。相続時精算課税制度を利用して贈与した財産の金額は、贈与した人が亡くなり相続が開始したときに、相続税の計算に含まれることになります。

相続税を計算する際には贈与した当時の財産の価格を使うため、贈与時点から相続開始時点にかけて財産の価値が上がる場合は、価格上昇分に課税されずに済むため実質的に相続税の節税になります。

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相続税の節税対策:不動産を活用する方法

続いて、不動産を活用した相続税の節税対策方法を紹介します。

不動産を活用する方法
  • 時価より相続税評価額が低い不動産を購入する
  • 更地に賃貸アパートを建てる
  • 小規模宅地等の特例を活用する
  • 配偶者居住権を設定する

時価より相続税評価額が低い不動産を購入する

不動産購入も生前の相続対策になります。

一般的に不動産は時価(市場で売買するときの価格)よりも相続税評価額(相続税の計算で使う価格)のほうが低いため、不動産を購入して相続すれば、現金で相続するより相続税を節税できます。

不動産は遺産分割が難しく相続トラブルの原因になる場合もあるため注意が必要ですが、相続税の節税対策の一つとして土地や家の購入を検討しても良いでしょう。

更地に賃貸アパートを建てて相続する

賃貸アパートが建っている土地の相続税評価額は、評価額を計算するときに他人に賃貸している点が考慮されて、自宅などよりも相続税評価額が低くなります。そのため、更地で相続するよりも賃貸アパートを建ててから相続したほうが相続税の計算で使う評価額が低くなるため、税金の計算で有利です。

もちろん、賃貸物件の経営がうまくいかず損失が出るリスクはありますが、逆に経営がうまくいけば賃料収入を得られて、相続した後に相続人が賃料収入を得ることができます。

小規模宅地等の特例を活用する

生前にできる相続税対策の5つ目は、「小規模宅地等の特例の活用」です。

小規模宅地等の特例とは、居住用や事業用の土地を相続する際に一定の要件を満たすと使える制度で、この特例を使えると土地の相続税評価額を最大80%減額してから相続税を計算できます。

生前に対策をして特例の要件を満たすようにしておけば、相続税を大幅に節税できる場合があるので、居住用や事業用の土地を相続する場合は特例制度の活用を検討すると良いでしょう。

配偶者居住権を設定する

生前にできる相続税対策の6つ目は、「配偶者居住権の設定」です。

配偶者居住権とは、亡くなった人が所有していた建物に配偶者が住み続ける権利のことで、自宅を相続する際に所有権と配偶者居住権を分けて相続することができます。

配偶者居住権価格の算出方法は細かく決められていますが、たとえば、3,000万円の自宅の権利を所有権2,000万円・配偶者居住権1,000万円に分けて、配偶者が配偶者居住権1,000万円を、子が所有権2,000万円を相続する場合を考えてみましょう。

一般的に、配偶者が相続で取得した財産は、配偶者が亡くなったときに子が相続することになり、このときに相続税がかかります。

しかし、配偶者居住権は配偶者に認められた権利であり、配偶者が亡くなると消滅するため、相続の対象とならず相続税はかかりません。つまり、配偶者から子への相続の際、配偶者居住権1,000万円は消滅するため相続税はかからず、子が自宅の所有権3,000万円を得ることができて節税になるということです。

配偶者が1,000万円分の財産を持っていれば、通常は子に相続するときに相続税がかかりますが、配偶者居住権であれば相続税がかからずに済みます。

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相続税の節税対策:生命保険を活用する方法

続いて、生命保険を活用した相続税の節税対策方法を紹介します。

生命保険を活用する方法
  • 死亡保険金の非課税枠を活用する

死亡保険金の非課税枠を活用する

死亡保険金の非課税枠を活用する方法です。相続人が死亡保険金を受け取る場合には、「500万円×法定相続人の数」で求めた金額まで相続税がかかりません。

死亡保険金の非課税枠
  • 死亡保険金の非課税枠 = 500万円 × (法定相続人の数)

現金や預金で相続すると全額が相続税の課税対象になりますが、生命保険に加入して死亡保険金で受け取るようにすれば、非課税枠を使えて相続税の節税になります。

また、死亡保険金は遺産分割協議の対象外であるため、相続開始後に受取人がすぐに保険金の請求手続きをできる点も、生命保険を活用することのメリットの一つです。

遺産分割協議が終わるまで待つ必要がなく、受取人がすぐに保険金の支給手続きをできます。

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相続税の節税対策:その他の方法

続いて、その他の相続税の節税対策方法を紹介します。

その他の方法
  • 養子縁組によって法定相続人を増やす
  • 墓地や墓石、仏壇を生前に購入する
  • 自社株の生前贈与や評価額の引き下げを行う

養子縁組によって法定相続人を増やす

生前にできる相続税対策の3つ目は、「養子縁組の活用」です。

まず、遺産を相続する場合でも、遺産額が基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。

相続税の基礎控除額
  • 基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × (法定相続人の数)

養子縁組をすると、法定相続人の数が増える場合があり、法定相続人の数が増えて基礎控除額が増えれば、相続税がかからずに済む遺産額が大きくなって節税になります。

ただし、養子縁組を行った場合に法定相続人の数に含められる養子は次の人数までです。

法定相続人の数に含められる養子の数
  • 実子がいる場合:1人まで
  • 実子がいない場合:2人まで

なお、養子縁組をすると相続関係が変わり、元々相続人だった人の遺産の取り分が減る場合があります。

遺産の取り分が減ったことで不満を抱いて相続トラブルになる場合があるため、相続税の節税対策として養子縁組をする場合は、相続トラブルにならないかどうかにも注意しましょう。

墓地や墓石、仏壇を生前に購入する

生前にできる相続税対策の7つ目は、「墓地や墓石、仏壇の購入」です。亡くなった人が死亡時点で所有していた財産は基本的に相続税の対象になりますが、墓地や墓石、仏壇は相続税の課税対象外です。

生前に墓地などを購入して相続すれば相続税がかからずに済み、現金や預金で相続して相続税が課される場合よりも相続税を節税できます。

一方で、相続した現金や預金を使って相続開始後に墓地などを購入しても、購入費用に充てた現金や預金には相続税がかかってしまい、非課税にはなりません。そのため、相続開始後に墓地や墓石を購入することになる場合は、相続税の節税対策として生前に購入しておくほうが良いでしょう。

自社株の生前贈与や評価額の引き下げを行う

生前にできる相続税対策の8つ目は、「自社株の生前贈与や評価額の引き下げ」です。

たとえば、役員退職金を支給して純資産価額を低くすれば、株式の相続税評価額が下がって相続税の節税になる場合があり、増資をすれば1株あたりの価値が下がって相続税を節税できる場合があります。

また、自社株の株価が下がっているときに株式を事業承継者に贈与したり譲渡したりするのも、相続対策として有効な方法のひとつです。

生前に贈与・譲渡すれば相続税がかからずに済み、株式の価値が低いときに贈与・譲渡すれば贈与税や所得税が低く抑えられます。

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所得が大きい方向けの相続対策

所得が大きい方は、毎年収益を得ることで、総資産が年々積みあがっていきます。また、毎年かかる所得税も高額であることが多いでしょう。このような人が検討したい相続対策は、次のとおりです。

所得が大きい方向けの相続対策
  • 価値を生む資産を生前贈与する
  • 早めに事業承継をする

価値を生む資産を生前贈与する

所得が大きくなっている原因が、収益不動産など定期的に価値を生む資産の所有である場合には、その価値を生む資産を早めに次世代へ生前贈与しておくと良いでしょう。なぜなら、そのまま収益不動産などの価値を生む資産を所有していれば、収益を得るたびに資産総額が増えていってしまうためです。

仮に、毎年400万円の所得を生む不動産をそのまま持っていれば、単純計算で10年後には4,000万円もの資産が積み上がります。もちろん、このうちの一部は生活費などで使うとしても、相続が起きるまで残っていた分についてはまるまる相続税の課税対象となってしまうわけです。

そこで、価値を生む資産を早期に生前贈与することで、その資産そのもののみならず、以後その資産から生じる資産までを含めて次世代に移転することが可能となります。つまり、価値を生む資産を生前贈与することで、その後その資産から生じる収益分の金銭については、贈与税や相続税をかけることなく次世代へ移転することができるわけです。

また、このような資産を持っている人は、累進課税(所得が高いほど税率が高くなる仕組み)である所得税も高止まりしている可能性が高いでしょう。そのため、自身よりもその資産の贈与を受けた子などの収入が低い場合には、収益を生む資産を早期に移転することで、所得税の税率も比較的低く抑えられる効果も期待できます。

資産管理会社を使って資産を移転する

資産管理会社とは、不動産や株式など、資産を保有することを目的とした法人です。「資産管理会社」という名称の会社の種類があるわけではなく、株式会社や合同会社など、一般的な法人形態で設立します。

所有している収益不動産の数が多い場合などには、それらの収益不動産を所有する資産管理会社を設立し、その資産管理会社の株式を次世代へ移転することも検討すると良いでしょう。

資産管理会社を設立して収益不動産など収益を生む不動産を保有させることで、子などへはこの資産管理会社から役員報酬や給与を支払う方法で資産を移転することが可能となります。

また、不動産を一度に移転すれば、高額な贈与税がかかる可能性が高い一方で、不動産を毎年小分けにしてコツコツと贈与することには、手続きの手間や費用(司法書士報酬や登記に際してかかる登録免許税など)がかさんでしまいます。

一方、不動産を所有させた資産管理会社の株式であれば、さほどコストをかけることなく、毎年少しずつ移転していくことが可能です。

他にも、たとえば複数の子がいる場合に、平等な相続への対策として活用することもできます。なぜなら、資産管理会社の株式こそ一部の子へ集約させるとしても、他の子を資産管理会社の従業員や役員として給与や役員報酬を支払うなどの仕組みを検討することが可能となるためです。

早めに事業承継をする

所得が大きくなっている原因が、自身が代表取締役などを務める会社からの役員報酬である場合には、早めに次世代への事業承継を検討することも、節税の観点からは有効であるといえるでしょう。なぜなら、自身が代表取締役である限りは毎年大きな役員報酬を受け続けることとなり、年々資産が積み上がっていってしまうためです。

もちろん、役員報酬には毎年の所得税が課税されていることでしょう。そのうえで、その資産のうち相続が起きた時点で残っていたものに対しては、さらに相続税も課されてしまいます。

そこで検討したいのが、早めの事業承継です。早めに事業承継し、子などの後継者を代表取締役とすることで、自身の役員報酬を抑えることが可能となります。

同時に、後継者へより大きな役員報酬を支払うことができれば、実質的にはいずれにしてもかかる所得税のみで(贈与税や相続税の対象となることなく)、子へ資産の移転をすることと同じ状態となるわけです。

また、自身が会社の株式の大半を所有しており配当収入を得ている場合には、株式も早期に次世代へ移転するとよいでしょう。先ほど解説した収益不動産と同じく、株式を持っている限り、資産が増え続けてしまうためです。

なお、自社株をそのまま次世代へ移転してしまえば、高額な贈与税の対象となる可能性があります。そのため、自身が代表取締役を退任して役員退職金を得たタイミングで株式を移転したり事業承継税制の活用を検討したりするなど、株価の引き下げ対策や贈与税対策とセットで行うべきでしょう。

また、株式を早期に次世代へ移転してしまうことによる次世代の暴走が心配である場合には、黄金株(拒否権を持った株式)などの種類株式を活用することで対応することが可能です。事業承継にはさまざまな手法がありますので、税理士などの専門家へ相談の上、自社に合った方法を検討すると良いでしょう。

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争族対策としておすすめの方法

争族対策としておすすめの方法

続いて、相続開始後に相続トラブルが起きそうな場合にやっておきたい争族対策を紹介します。自分が死んだ後に相続トラブルが起きる可能性が少しでも低くなるように、生前にできる限りの対策をしておくようにしましょう。

争族対策としておすすめの方法
  • 遺言書で遺産を相続する人を指定する
  • 争いの原因になる相続財産を生前贈与で減らす
  • 分割しにくい不動産を売却して現金化する
  • 生命保険に加入して死亡保険金の受取人を指定する
  • 家族信託を活用して遺産を相続する人を指定する

遺言書で遺産を相続する人を指定する

争族対策の1つ目は、「遺言書の活用」です。遺産の分け方を巡って相続人同士で争いになりそうな場合でも、財産を遺す側が生前に遺言書を作って遺産の分け方を決めておけば、分け方を巡って争う余地がなくなります。

遺言書の種類と特徴

遺言には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。

3種類ある遺言書の特徴
  • 自筆証書遺言:遺言の全文を自書して作成する
  • 公正証書遺言:公証人に作成してもらい、遺言書の原本が公証役場で保管される
  • 秘密証書遺言:本人が遺言書を作成して封印し、公証役場に持ち込んで証明してもらう

3種類の遺言のうち、一般的によく使われるのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つです。

まず、自筆証書遺言は紙とペンさえあれば作成できるため、手間や費用がかからない点がメリットで、自分で遺言書を作成して自宅に保管しておけば、遺言内容を他人に知られずに済んで秘密にできます。

作成した遺言書を自宅などで保管すると紛失や盗難のリスクがありますが、自筆証書遺言を法務局で保管する制度を利用すれば、紛失や盗難のリスクがなくなり安心です。

また、保管申請の際に遺言書の形式に不備がないかチェックしてもらえるため、形式不備によって遺言書が無効になるリスクが基本的になくなります。公正証書遺言は、自筆証書遺言に比べると作成に手間や費用がかかりますが、遺言書を公証人に作成してもらえるため、形式不備によって無効になるリスクは基本的にありません。

自筆証書遺言と違って公証人が遺言書を作成するため、自分で字が書けない状態にある人でも作成できます。そして、公証人が病院や自宅に来てくれる出張作成制度を利用すれば、寝たきりの状態の人や入院中の人でも作成できる点が公正証書遺言のメリットです。

遺言を残す場合は公正証書遺言がおすすめ

遺言書を作成するのであれば、3種類ある遺言の中でも公正証書遺言にすることをおすすめします。形式不備によって遺言書が無効になる可能性が基本的になく、また遺言書の原本が公証役場で保管されるため、紛失のリスクがなくて安心だからです。

ただし、遺言の内容自体は公証人が考えてくれるわけではないので、自分で考える必要があります。相続税の節税や争族回避を意識した内容で遺言書を作成するときには、相続に関する専門的な知識が必要になるので、税理士や弁護士などの相続の専門家に相談するほうが良いでしょう。

争いの原因になる相続財産を生前贈与で減らす

争族対策の2つ目は、「生前贈与」です。遺産の分け方を巡って相続人同士で争いになりそうな場合でも、生前に財産を贈与して遺産を減らしておけば、そもそも争いの原因になる遺産が減ってトラブルを避けられます。

ただし、生前贈与をするときには遺留分に注意しなければなりません。遺留分とは、遺産の一定割合を最低限相続できるものとして一定の相続人に法律上保証された権利です。

たとえば、子である兄弟2人が相続人になる場合、兄・弟にはそれぞれ遺産の4分の1を相続する権利が遺留分として認められます。

そのため、仮に生前に親が子(兄)に全遺産を贈与して子(弟)が一切遺産を相続できないようにしたとしても、原則として弟は遺留分を主張して遺留分相当額の財産を兄に請求できます。遺留分を巡って相続開始後にトラブルが起きないように、争族対策として生前贈与を行う場合には各相続人の遺留分に注意しましょう。

分割しにくい不動産を売却して現金化する

争族対策の3つ目は、「不動産の売却」です。不動産は分割がしにくく、土地や家を誰が相続するのかを巡って揉めることがありますが、生前に不動産を売却して現金化しておけば、遺産分割がしやすくなり揉める可能性が低くなります。

相続税の節税対策で紹介したように、不動産を購入すれば税負担を軽減できる場合がありますが、争族対策を優先するのであれば、逆に不動産を持たないほうが良い場合もあるということです。

生命保険に加入して死亡保険金の受取人を指定する

争族対策の4つ目は、「生命保険の活用」です。遺言書が遺されておらず、相続人が2人以上いる場合、遺産の分け方を話し合う遺産分割協議を行いますが、死亡保険金は遺産分割の対象外となります。

遺産分割協議で揉めた場合は、協議が終わるまで遺産の相続手続きができませんが、そもそも死亡保険金は遺産分割協議の対象外であるため、誰が受け取るのかを巡って揉める余地がありません。

死亡保険金の受取人は相続開始後にすぐに手続きをして保険金を受け取ることができ、生活費などに充てることができます。

自分の死後に遺産の相続を巡って揉めそうで、預金の相続手続きなどがすぐにできず生活費の確保で困る可能性がある相続人がいる場合は、死亡保険金で受け取れるようにしておくと良いでしょう。

家族信託を活用して遺産を相続する人を指定する

争族対策の5つ目は、「家族信託の活用」です。家族信託とは、自分の財産を家族に信託して管理や活用を任せることで、次のようなメリットがあります。

家族信託のメリット
  • 親が認知症になった後でも財産の管理や活用を継続できる
  • 相続開始後に財産を誰が受け継ぐか指定できる
  • 遺言ではできない二次相続対策までできる

元気なうちに家族と信託契約を結んで財産管理を任せておけば、万が一本人が認知症になって自分では財産管理ができない状態になった場合でも、家族が財産の管理や活用を続けられます。

そして家族信託では信託契約を結ぶ際に、相続開始後の財産の受取人を決めることができ、さらに次の相続(二次相続)が起きたときの財産の承継先まで決められる点がメリットです。自分の財産を誰が受け継ぐのかを事前に決めておけば、相続開始後に相続人同士で揉めることがなくなります。

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相続人の手続負担を減らす方法

相続人の手続負担を減らす方法

家族が亡くなり相続が開始すると、相続人はさまざまな手続きをしなければならず何かと忙しくなります。生前に対策をしておくと、相続開始後の手続負担を減らせる場合があるので、家族の負担を少しでも軽くするために次のような対策を生前にしておくと良いでしょう。

相続人の手続負担を減らす方法
  • 相続登記が正しく行われているか確認する
  • 遺言書で遺言執行者を定めておく
  • 生前に財産を整理して財産目録を作成する

相続登記が正しく行われているか確認する

土地や家の相続登記が正しく行われていないまま相続が発生すると、不動産の権利関係が複雑になり手続きに時間や手間がかかる場合があります。そのため、将来相続が起きたときに遺産に不動産が含まれる場合には、その不動産の登記が正しくされているかどうかを事前に確認しておきましょう。

たとえば、父親が所有している土地があり、先代の祖父の名義のままになっているというケースは少なくありません。これは、父親が祖父から土地を相続した際、相続登記をし忘れていて名義が祖父のままになっているケースです。

そして、父親が生きているうちに相続登記をして自分の名義に変更するだけであれば、手続きとしてはそれほど大変ではありません。

しかし、土地の名義が祖父になった状態で父が亡くなって子が土地を相続することになると、生前に父親の名義に変更していた場合に比べて手続きに手間がかかります。自分が死んだ後に家族の手続負担を増やさないためにも、不動産の名義が正しく登録されているかを確認するようにしましょう。

遺言書で遺言執行者を定めておく

相続対策として遺言書を作成する際、決めておいたほうが良いのが遺言執行者です。遺言執行者とは、遺言に書かれた内容に従って手続きを進める人のことで、遺言執行者を決めておくと遺言執行者が1人で遺産相続の手続きをできるためスムーズに手続きを進められます。

逆に、遺言執行者を定めていない場合には、相続人の中に手続きに非協力的な人がいて遺産相続の手続きが進まないことがあるため注意が必要です。

たとえば、預金の相続手続きをする際、遺言執行者がいないとすべての相続人の印鑑証明書が必要になり、相続人同士の仲が悪くて他の相続人から印鑑証明書を出してもらえず困る場合があります。しかし、遺言執行者が指定されている場合には、遺言執行者の印鑑証明書があれば預金の相続手続きができるため、手続きが滞る心配はありません。

生前に財産を整理して財産目録を作成する

終活を行って生前に財産を整理すれば、相続手続きの対象になる財産の数が減って相続人の手続負担を軽減できる場合があります。

たとえば、いくつもの金融機関に口座を持っていると、相続人は相続開始後にそれぞれの金融機関で相続手続きをしなければなりません。相続手続きの流れや必要書類は金融機関ごとに異なる場合が多く、金融機関ごとに手続きの流れの確認や書類の準備などをするのは非常に手間がかかり大変です。

しかし、複数の金融機関に分かれている預金を整理して生前に一つの口座にまとめておけば、相続人が相続手続きをする金融機関は一つで済みます。

また、相続開始後に相続人は相続財産調査を行って、遺産に含まれる財産を確認しなければいけませんが、財産目録があれば確認作業が簡単になるので、財産目録を作っておくほうが良いでしょう。一つひとつ財産を確認する作業は手間も時間もかかりますが、財産を遺す人が生前に財産目録を作っておくだけで、相続開始後の相続人の手続負担を大きく軽減できます。

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相続対策は誰に相談すべき?

相続対策は誰に相談すべき?

相続対策では相続に関する専門的な知識が必要になるので、相続の専門家に相談した上でどのような対策を取るか決めることをおすすめします。

ただし、専門家であれば誰に相談しても良いというわけではありません。一口に「相続の専門家」といってもさまざまな専門家がいて、それぞれ得意分野が異なるため自分が相談したい内容に応じて相談先を選ぶことが大切です。

相続対策の相談先を決めるときのポイント
  • 相続税の節税対策は税理士に相談する
  • 相続トラブル対策は弁護士に相談する
  • 不動産の相続対策は司法書士に相談する

相続税の節税対策は税理士に相談する

相続税の節税対策を考えたい場合は税金の専門家である税理士に相談しましょう。相続税の申告や節税対策提案を行った経験が豊富にある税理士であれば、家族の状況や財産の種類などから考えて、どのような相続対策が最適なのか検討してくれます。

なお、税理士の中には相続税を専門にしていない税理士もいるので、税理士に相談するときには、相続税に強い税理士を探して相談するようにしてください。相続専門の税理士に相談すれば、一次相続だけでなく次の相続(二次相続)まで見据えた相続対策の提案を受けられます。

相続トラブル対策は弁護士に相談する

相続トラブル対策を考えたい場合はトラブル対応の専門家である弁護士に相談しましょう。相続を専門にしている弁護士であれば、遺産相続を巡ってトラブルが起きやすいケースや理由が何かを理解していて、生前にどのような対策を取るのが良いのか提案してくれます。

たとえば、遺言書を作成するときに弁護士に相談すれば、相続トラブルにならない内容で遺言を考えてもらえるため安心です。さらに、弁護士に遺言執行者になってもらえば、自分が死んで相続が起きた後の相続手続きまで任せることができます。

不動産の相続対策は司法書士に相談する

不動産の相続対策を考えたい場合には相続に強い司法書士を探して相談すると良いでしょう。相続を専門にしている司法書士であれば、不動産の相続で注意すべき点を理解していて、遺産相続で気を付けるべき点など必要なアドバイスをしてくれます。

また、相続に詳しい司法書士に遺言執行者になってもらい、自分が死んで相続が開始した後の相続登記の手続きを依頼しても良いでしょう。慣れない相続登記の手続きを相続人が自分でやろうとすると、手間も時間もかかり苦労する場合がありますが、専門家に手続きを任せれば相続人の手続負担を軽減できます。

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まとめ

生前にできる相続対策には、今回紹介したようにさまざまな方法があります。相続対策をすれば、相続税の節税や相続トラブル回避、相続手続負担の軽減につながるので、できる限りの対策を生前に行うことが大切です。

逆に、相続対策をしないと、相続税が思っていた以上にかかってしまったり、相続開始後に相続人同士で揉めてトラブルになったりする場合があります。相続税の納税後に相続人の手元に残る遺産を少しでも多くして、相続開始後の相続人の負担を少しでも軽くできるように、生前の相続対策をしっかりと行うようにしてください。

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牛腸真司
税理士
立命館大学卒業2011年、税理士登録。税理士登録番号は118275。2012年 東京都港区益本公認会計士事務所(現税理士法人総和)にて資産税対策専任。2015年 千葉県税理士会登録。千葉県税理士会松戸支部広報部員。